今回はちょっと変わった間伐方法をご紹介しましょう。木の皮をむき、立ち枯れさせてから切り倒す「皮むき間伐」です。
この間伐方法は、福井県在住の森林インストラクターで林業改善指導員の鋸谷茂(おがやしげる)さんが提案した巻き枯らし間伐(環状剥皮)をNPO法人森の蘇りがアレンジしたもので、木が水や養分を循環させている樹皮を環状にカットするだけでなく、 樹皮を上方まではがして木を立ち枯れさせていきます。これは、立ち枯れた木は残された樹皮に虫がつきやすいので、 できるだけたくさんの樹皮をはがすことで、木材としての使用範囲を広げていこうという試みでもあります。
通常の間伐では、伐採時の木は沢山の水分を含んでいて、非常に重いものですから、運び出すのは大変な重労働です。 一方皮むき間伐では切り倒す前に乾燥させるので、伐採時には、軽トラックで運べるくらいに木が乾燥して軽くなります。 そして木は皮をむいた後にゆっくりと自然に乾燥されるため、木材乾燥機などで乾燥するよりも、 ひび割れも少なくなり、さらに、フィトンチッドなどの有効成分が多く残ります。
また、子どもや女性など、体力に自信が無い人でも気軽に参加できる、簡単な作業があることもその特長です。 クレーンを準備したり何人もの男手を集めなくても、比較的楽で安全にに作業を進めることができ、それでいてよい木材をつくることができる、 こうした手軽さや森へ通う気持ちのよさが話題となり、今、日本各地でボランティアによる、新しい間伐の取り組みが始まっています。
【道具】 ・のこぎり ・皮むき用のヘラ(森の蘇りでは竹ヘラを使用) ・ロープ(長さ/問い合わせます) ・巻き尺 ・電卓 ・密度管理早見表 ・樹高測定板 ・エリア設定用のロープ(27メートル/円形エリア)または目印用の棒(4本/四角形エリア) ・お昼寝用のマットやハンモック
樹は1haあたりの断面積が80㎡になると、それ以上太くなれなくなります。生長に適切な木の密度は、1ha(10000㎡)あたりの断面積が約40㎡。まず作業しやすいように、1区画を50㎡(直径4m、または7.07m×7.07m) で区切ってエリアを設定し、間伐する範囲をロープなどで囲ってわかりやすくします。次に大きく育っている木を 選び、株元の円周を計って断面積を計算し、残す木には印をつけておきます。
♦選木のアドバイス
円周から直径を割り出す(直径=円周÷3)だけで断面積がわかる「密度管理早見表」があると便利です。 また、木の高さを直径で割った数字を「形状比」と呼んでいますが、手入れのされていない森では形状比80以上のひょろひょろの木が残る場合もあります。 こういう森で皮むきした木を全て切り倒してしまうと、育てるために残した木が風で倒れる恐れがあります。そんなとき森の蘇りでは、 皮むきした木をすべて切り出さないで、約半分を支え木として残すようにしています。 木の高さは「樹高測定板」(木から20メートル下がって木の天辺にプレートを向けると、垂れた糸とプレートの目盛りの交点で樹高が分かる)などで測れます。
- (1) ノコギリで木の株元に切り込みを入れ、ヘラで皮をはがします。
- (2) 上まで皮を剥がす。ゆっくり後ろに下がって自然にはがれるようにするのがコツ。 途中で引っかかったときは、左右に振り、再び剥がしていきます。 皮が残ったところは虫が食べてしまうので、たくさん皮をむくときれいな木材になります。
そのまま放置して、水分が抜けていくのを待ちます。
【道具】 ・のこぎり ・チェーンソー(あると便利ですが、使い方に気をつけて) ・フェリングレバー(木まわし) ・ロープ(長さ/問い合わせます) ・ロープを押し上げる棒(森の蘇りでは5mの竹を使用) ・お昼寝用のマットやハンモック
切り倒した後に運び出す場所や、まわりの木の間にぶつからないこと、枝のすき具合などを考慮しながら方向を決めます。
切り倒したい方向に「受け口」というくの字型の切り込みを入れます。実際に受け口の前に立って確認するとわかりやすいですね。
受け口の反対側に「追い口」というまっすぐな切り込みを入れます。この時、受け口の高さの1/3〜2/3くらいの高さに、 木に垂直になるように切っていきます。ひとまず、受け口の2−3cm手前でとめます。このつながっている部分を「つる」といいます。
- (1) 木を倒す前に、5mの竹を使って木にロープを回しかけ、引き倒す準備をしておきます。 まずは、木を押し倒します。倒れにくいようなら、追い口からノコを入れ、つるを細くしていきます。
- (2) 倒れないときはフェリングレバーを使って切り口を起こし、ロープを引っ張って倒します。 この時、木が倒れる方向から引っ張ると危険なので、まわりの木にロープをかけて、違う方向から引っ張ります。
- (3) まわりの木の枝に引っかかってしまったら、フェリングレバーで切った木の根元をつかんで回し、 木の先が枝に引っかからないように動かします。 足元に気をつけながら慎重に作業しましょう。
- (4) 再び木を押したり引っ張ったりして倒します。切り倒し完成。
竹を使ってロープをかける
倒れない時は切り口を起こす
ロープを別の木にひっかけて違う方向から引っ張る
回したり押したりしながら安全な方向へ倒す
倒した木の枝を切ります。枝の根元からきれいに切り取ります。
木の幹の大きさによって切り分けます。直径15cm以上は床材に使うので長さ2mに、直径12〜15cmは壁材に使うので2.4mに、 それよりも細い部分は4mに切っていきます。山で切りそろえることで運びやすくなり、 またストックするのにも場所をとらず、管理しやすくなります。
平地の場合はそのまま担いで運べますが、傾斜地はおろすだけでもひと苦労。
そこで、斜面に木を並べて木材を滑り出させる修羅(しゅら/すら)をつくり、自然の力を利用しながら下におろします。
後は集めた木を順々に運び出していきます。
(このやり方は、昭和30年代半ばまで主流のやり方として各地で利用されていました。)
木から水分がなくなって枝が枯れていくだけでも、森の中、木々の足元にまで光が射すようになり、変化が生まれていきます。 「森の蘇り」によると、最初は数種だった下草が1年後には23種類になり、木を切り倒す1年半後には、 一面が緑になっている森が多いのだとか。さらに木を切り倒すと、2年後には23種類、3年後には76種類と増えていたそうです。
♦NPO「森の蘇り」では、スギやヒノキだけが植えられた人工の森を、シイ・カシやコナラ・クリ・ ブナなどその地域に本来生育していた、たくさんの生き物の命を支える森へと戻して行くという目標 をもって、間伐作業を行っています。
♦切り出しが終わった後、二度目の皮むき間伐をする時には、エリア設定を100㎡に広げて行います。
このようにいろんな人が参加できる皮むき間伐。「森の蘇り」では間伐体験の他にも、皮むき、切り出し、製材、改築など、 間伐材を利用するために必要な技術を学ぶワークショプを開催しています。 こういったイベントに参加した人が、それぞれの地元に戻り、森林ボランティアを開始した、という例も増えているとのことでした。