という方のために、家を建てるよりはずっと手軽に木を暮らしに取り入れる方法として「リフォーム」があります。フローリング以外にもどんな風に木を使えるのか、費用や工期はどの位かかるのかと、実際に国産の杉を使ってマンションをリフォームしたケースを見てみましょう。
東京・世田谷区三軒茶屋、国道246号沿いにある築33年のマンション。賃貸オーナーである小川さんは、その一室(約40平方メートル)を丸ごと杉でリフォームしました。
床と腰壁、窓枠、天井、そしてトイレの中まで、すべて国産の低温乾燥の杉を使用。壁には天然成分100%の漆喰を用い、家具も杉でつくるなど、自然素材にこだわりました。
床は、元々あった合板のフローリングの上に厚さ15ミリの杉板(赤芯・板目)を張りましたが、その際ウレタン系の接着剤などは一切使わず、本実(ほんざね)加工で板と板を組んで見えないところに釘を打つという工法で行いました。ノリを使わないことによって早く床を張ることができ、ウレタン系の成分が空気中に揮発する心配もなく、また、自然に杉板が動く、呼吸することによって調湿などの効果を発揮しやすいそうです。
杉は、ヒノキなどと比べて、やわらかいのに粘り強いという特性があり、また、低温乾燥の杉は植物由来の油分が多く残るため、無塗装でも美しい艶があり、床や腰壁材として最適。多少のキズがついても水を含ませれば膨らんで戻るし、やすりをかけることもできます。冬場の静電気を逃がしてくれるというメリットもあります。そして、熱伝導率が低いため、冬はあたたかく夏は涼しい。湿気を吸い、逆に空気が乾燥すると水分を吐きだし、まるで呼吸するように湿度を調節してくれる。杉特有の「いい匂い」がして、血圧を下げるなどの沈静作用もあるなど、住む人の心と体にやさしいメリットがたくさんあります。
リフォームにかかった工事期間は、約1.5ヶ月。工事費用はおよそ400万円(キッチン・ユニットバス・トイレ等標準的な設備を含む)。カラーフロアとビニールクロスでリフォームする場合は期間が約1ヶ月、費用は300万程度なので、初期投資としてはやや割高になりますが、入居者が替わるたびに床や壁の貼り替えをする必要はないのでメンテナンスコストは抑えられます。さらに、ビニールクロスなどのように廃棄する手間や費用がかからず、土に帰る素材なので環境に負荷をかけません。「メンテナンスフリーで10〜15年は大丈夫」と、施工を担当した加藤さんは言います。冬に工事をした経験豊富な大工さんは、「こんなに暖かい現場は初めて。仕事をしながら気持ちが良かった」との事。
床 | 香杉 フローリング 15ミリ 赤芯・枝目 仕様 ¥6,000/m2 + 貼り手間 |
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壁 | 漆喰: カルクウォール 0.5ミリ仕上げ ¥5,000/m2(材工共) 壁(トイレ内): 香杉 羽目板 12ミリ 源平 仕様 ¥4,500/m2 + 貼り手間 |
天井 | 香杉 羽目板 12ミリ 白 仕様 ¥4,000/m2 + 貼り手間 |
リフォーム完成後、この部屋で「タイ式ヨガセラピー」のセッションを行ったところ、体験者からはこんな声がありました。
Aさん: | からだにやさしい良い香りがする。普段は椅子にしか座らないが、ここだと床に座りたくなる。床にからだをひっつけたくなる。 |
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Bさん: | 246沿いとは思えないほどなぜか落ち着く。床暖房しているみたいに暖かい。床に弾力があって片足で立つのが楽。 |
Cさん: | トイレが気持ちいい。空気が乾燥していなくて心地良い。 |
Dさん: | あぐらで座っても足が痛くなかった。たぶん床がやわらかいから。 |
そして、「部屋に入った途端、ヨガを一時間やった後のように呼吸するのが楽でした。気持ちが解放されてリラックスするので、カラダもやわらかくなる感じがしますね。」と、セラピストの石田さん。
住む人にも賃貸オーナーや工事をする人にもやさしい杉。都心の幹線道路沿いでも森林浴気分が味わえる部屋。すぐにはリフォームできないけれど部分的にでも取り入れたいという方は、マット感覚の杉板や自分で張れるものもあるので試してみては?
会長:加藤政実さん、事務局長:小川典洋さん
セラピスト:石田ミユキさん