日本の原風景とも言われる里山から奥山へと連なる風景。その急峻な斜面で、「茶畑」を目にしたことはありませんか?
静岡茶、宇治茶、狭山茶、朝宮茶、伊勢茶、八女茶、知覧茶など良く知られている産地・ブランドに限らず、日本の多くの地域で古くから茶の木(チャノキ)が栽培され、お茶が生産されて来ました。
一つの茶葉が「緑茶」「紅茶」「ウーロン茶」に姿を変える「茶の木=チャノキ」は、ツバキ科ツバキ属の常緑樹で、原産地はインド・ベトナム・中国西南部とされ、野生化した樹木を含め熱帯から暖帯のアジアに広く分布しています。
チャノキの葉を摘んで、揉む、発酵させる、乾かすなどして出来るのがお茶。この工程で、発酵させないで加工したものが緑茶(不発酵茶)に、十分に発酵させたものが紅茶(発酵茶)に、発酵を途中で止めたものがウーロン茶(半発酵茶)になります。
お茶の発祥地は中国。日本に伝来したのは、遣唐使が往来していた800年を過ぎた頃です。当初、お茶は皇室や僧侶など高貴な身分の人々だけが口にでき、毒消しや眠気覚ましなど薬効のある植物として珍重されていました。
裾野が広がったのは、鎌倉・室町時代。宋からお茶の新しい製法や茶道具が伝えられ、寺院を中核とした茶園が京都から広がり、武士階級の社交の道具としても喫茶が浸透し、将軍らがチャノキの栽培を奨励するなどして各地に定着。15〜16世紀には「茶の湯」、茶道が確立され、武家社会に欠かせないものに。一方で庶民には、加工した茶葉を煮出したお茶が飲まれていました。
その後、江戸時代には煎茶の優れた製法が編み出され、これまでにない色と甘味、馥郁とした香りが江戸市民を驚嘆させたといいます。
左は「煎じ物売」。右、僧形の「一服一銭(室町時代の茶屋の原型)」が抹茶(粉茶)を勧めている。 東京国立博物館本『七十一番職人歌合』二十四番。
東海道五拾三次『袋井 出茶屋ノ図』(歌川広重)
「和敬静寂」。主人と客が互いに心を和らげて敬い謹み、清らかに、動じないという、千利休の茶道の心得は、今に伝えられています。また、茶の湯の精神は「究極のおもてなし」とも言われています。私たち日本人は、住まいから習慣、着物、料理、器、絵画や文学まで、茶道から多くの影響を受けて来ました。
と同時に、一杯のお茶を、ただ飲んで味わうだけのものではなく、コミュニケーションの媒介としても大切にして来たのではないでしょうか。
「茶の湯日々草」より『濃茶の圖』
「お茶する?」などという言葉には、おしゃべりしましょう、もっと親しくなりたいなど、様々な意味が込められています。この場合の「お茶」は、飲む物よりも相手とのコミュニケーションが主目的で、それを「お茶」という言葉で表すのは象徴的と言えます。
甘くまろやかなお茶、渋みと甘みが調和したお茶……。一杯のお茶は、私たちの日常に香り高く味わい豊かな時間をとどけてくれます。今は、ペットボトルに入ったお茶がいつでもどこでも飲めたり、抹茶入りの食品がブームになるなど、誰もがお茶を手軽に取り入れることが出来ます。一方、「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されたことなどもあって日本茶ブームとなり、好みの茶葉や茶器を選んで、時間をかけてゆっくり味わう一杯の価値も見直されています。
思えば日本人は、古来、チャノキのお茶以外にも麦茶、薬草茶、雑穀茶、ドクダミ茶、ビワ茶、柿の葉茶、そば茶、黒豆茶、クロモジ茶、スギ茶など、本当にさまざまな里山の恵みをお茶としていただいて来ました。疲れを癒し、心を和ませ、会話を弾ませてくれる一杯の幸せ。もっとさまざまなお茶を、それぞれのスタイルで、ゆっくりたのしんではいかがでしょう。
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