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放射性物質と森
レポート02 チェルノブイリにおける森林汚染と対策について知る

ポスト3.11と森

ポスト3.11と森:放射性物質と森

レポート02 チェルノブイリにおける森林汚染と対策について知る

チェルノブイリ原子力発電所:5号炉と6号炉用の冷却塔(※1)
チェルノブイリ原子力発電所:5号炉と6号炉用の冷却塔(※1)

レポート01では、宇都宮大学の大久保教授より、森の中で移動する放射性物質について、計測方法や研究者の取組みに関する興味深いお話を伺いました。レポート02では、編集部が入手したいくつかの資料をもとに、1986年のチェルノブイリ原発事故における森林汚染と、対策についてとりあげます。レポート01と併せてご参考下さい。

森林生態系で循環する放射性セシウム

原発事故由来の放射性物質には何種類かありますが、いま森林を汚染しているものは主に放射性セシウムだと考えられます。放射性セシウムは自然界にはほとんど存在しない物質ですが、周期表でいえば第一族に属していて「カリウム」と性質が似ています。

タケノコ/原木シイタケ

そのため、成長にとって必須のミネラルであるカリウムと区別できずにセシウムを取り込んでしまう植物があります。その代表的な例に、アカザ科(ホウレンソウなど)やイネ科、キノコ類、タケノコ、アシタバ、茶などが挙げられます。

 

いったん森林生態系に取り込まれたセシウムはカリウムと同じ経路で循環します。カリウムがどのように動いているかを知れば放射性セシウムの動きを知ることができます。図1は放射性セシウムの動態ですが、「降水」「粒子」をのぞけばカリウムの動きとほぼ同じです。ちなみにカリウムの場合、森林生態系外から供給されることはとても少なくて、土中の鉱物が主な供給源です。

図1 森林に沈着した放射性セシウムの長期的な動き *1

土中に溶け出したカリウムは樹木やキノコに取り込まれ、落葉などによって土壌の表層付近の有機層に蓄えられます。土中の動物や微生物の身体に取り込まれたカリウムはさらに大きな生物に食べられるなどして運ばれることもありますが、多くはその個体の死によってやはり土壌の表層に蓄えられます。このように、いったん森林生態系に取り込まれると森林の中ではダイナミックに移動しながらも、森林の外にはなかなか出て行きにくいしくみになっています。

森林に入って来た放射性セシウムは、カリウムが栄養塩サイクルで循環するのと同じように、比較的生物に利用されやすい形態を維持します。その結果、森林の生物中の放射性セシウムは比較的高濃度に保たれる可能性が高いのです。特に、キノコやシダ植物は、放射性セシウム濃度が高いものが多く見られます。このように放射性セシウムは森林の中で「動きながら留まっている」と表現されます。

事故後の森林における、放射性物質による汚染状況

除染に使われた軍用車両 [2010](※2)/チェルノブイリ原子力発電所4号炉 [2006](※3)

除染に使われた軍用車両 [2010](※2)/チェルノブイリ原子力発電所4号炉 [2006](※3)

1986年に発生したチェルノブイリ事故では、放射性物質が10日間にわたり環境中に放出され、広範囲の森林が汚染されました。樹木など生物学的に大きな影響があったのは反応炉から5〜6Kmの森林だそうですが、1986年から1987年の期間に限定されており、現在も人が住まないエリアなので、むしろ少し離れた西側350Km、南東100Kmの範囲に広がったという森林汚染の状況に注目してみます。

ウクライナ国立大学生命環境科学大学のセルゲイ・ヅィプツェフ(Sergiy Zibtsev)教授によれば、ウクライナでは、汚染地域の森林から土壌を積極的に移動させるなどの除染処置は行われなかったとのこと。これは森林が放射性物質を循環させながら森林生態系の中に留めておける(拡散させない)性質を重視した対策ですが、近隣の住民が林産物(木材、キノコ、ベリー類、狩猟獣肉、干し草や薬草)を利用していたので、この地域住民には、重大な追加外部/内部被爆がもたらされました。25年が経ち、放射性セシウムの値は1.7分の1に減少したそうですが、森林近くに生活する人々の内部被爆を軽減することには成功していない、とヅィプツェフ教授は報告しています。

森林内で土壌の表面に沈着した放射性セシウムは、そのまま表層付近に長期間留まり、移動しにくい傾向にあります。これは、セシウムが土壌中の粘土鉱物に吸着しやすく、放射性セシウムが一旦吸着(固定)されると、非常に動きにくくなるためで、ヅィプツェフ教授のレポートにも、土壌中の粘土粒子が増えるにしたがって、根から吸収される放射性物質の、樹木への移動量が減少するとありました。

Red Forest Hill, 2009(※4)

Red Forest Hill, 2009(※4)

チェルノブイリ周辺は日本に比べ気候は単純で雨が少なく、火山がないために粘土質が少なく砂が多いので、経根吸収による森林の継続的な汚染が起こりやすい環境です。こうした天候や土壌の違いに加え、ストロンチウムやプルトニウムなどの半減期の長い放射性物質が放出されていることや、地形や樹種の違いなど、数多くの要因が影響するため、チェルノブイリと日本の森林の汚染状況を単純に比較することは難しいそうです。

チェルノブイリ事故当時、南西2.5Kmにある松林が大量に放出された放射性物質によって、比較的早い時期に枯死し、「レッドフォレスト」と呼ばれて大きな話題になりましたが、次の項目では、もう少し離れた森、目には見えない低汚染地域で暮らす人々のための規制・考え方に着目します。

 
1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故によって、ゴーストタウンとなったプリピャチ。建物の隙間を覆うように木々が育っている。 [2012](※5)

1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故によって、ゴーストタウンとなったプリピャチ。建物の隙間を覆うように木々が育っている。 [2012](※5)

事故後の林業活動や林産物利用における規制・考え方

ウクライナでは、汚染地域内の持続的森林利用のために、さまざまな対策が行われてきました。まず、ウクライナ国内の全ての汚染地域は、政府の指示により4つの地域に区分されています。第1及び第2地域は「チェルノブイリ排除ゾーン(全員退避)」。第3地域は実効線量が年間1ミリシーベルト以上の「住民移転保証地域」。第4地域は実効線量が年間0.5ミリシーベルト以上の「放射線規制拡大地域」となります。

排除ゾーン以外の森林には、㎡あたりベクレル数でゾーニングを設け、最も緩やかな「林産物の利用制限なし」から555キロベクレル以上の「特別な林業管理形態の展開、作業時間の制限」まで7つの段階で林業活動を規制しています(表1)。

 
表1 137Cs土壌汚染密度にもとづいた森林のゾーニング別の林業活動の規制 *2

林業活動だけではありません。木材など林産物の許容値についても、素材、製材品、国内流通品に分けて細かく設定されています。例えば、人が直接触れる床材と、人があまり入らない倉庫などの材で規制に差を付けて利用を許しています。その一方で国際的な家具販売店であるイケア社がさらに厳しい木材放射能規制値を設けるなど、複数の評価基準が共存していることは興味深いです。(表2)。トナカイの肉にかけられた規制値が地域(食習慣)によって異なることにも考えさせられます。日常的によく食べるラップランドでは厳しい制限がある一方、年に1回食べる程度の地域ではやや緩めに設定するというように、そこに暮らす人々を主体として、細かな規制が設けられていることがわかります。

表2 ウクライナの木材・木材製品の137Cおよび90Sr比放射能に関する許容衛生値 *3

ウクライナ森林資源庁資料(英訳:Sergiy Zibtsev、和訳:大久保達弘)
を元に作成

その他の木材に関する規制値例
イケア(IKEA)社製品木材放射能規制値:300Bq/kg(137C)
(スウェーデンの幼児食品規準に準拠)

規制対象国(汚染程度:1Curie/km2 : 37,000kBq・m2):
ロシア、ベラルーシ、ウクライナ、東欧諸国、スウェーデン、フィンランド

出典:IKEA Guide Explanatory notes to Specification IOS-MAT-0010. 2011-10-26

このように、チェルノブイリ事故後に汚染地域で持続的な林業活動を行うために開発された対策戦略はさまざまありますが、その中でヅィプツェフ教授によって最重要事項とされるものを以下にリストアップします。

表3 *4

  • 長期放射線生態学的モニタリングの確立
  • 林産物と被爆線量の制御
  • 汚染地域からの林産物の使用ルールについての周知
  • 汚染地域への立ち入り制限
  • 林産物の汚染証明と許容値受け入れとその更新
  • 森林作業技術
  • 森林管理戦略
  • 特別な山火管理アプローチ
  • 病虫害管理
  • トレーニング
  • 普及活動や他の方策を通じた知識普及

ヅィプツェフ教授によれば、チェルノブイリと福島原発で決定的に違うのは、福島原発事故で汚染された森林が多くの人が居住するエリアに隣接していることだそうです。チェルノブイリ原発事故で汚染された森林には人がほとんど住んでいないため、人への影響も限定的であると考えられています。ですから、日本では、チェルノブイリ事故で開発されたような対策に加え、日本独自の森林管理方法や技術を組み合わせた対処法と、林産物を利用するためのルールづくりが求められます。

いずれにしても、日本で起きた原発事故は日本独自のもので、「こうすれば大丈夫」という正解はどこにもありません。ルールや規制値を参考にして、私たち自身が、自ら考え判断して購入したり利用したりできるようになることが大切なのだと考えています。

謝 辞

本レポートをまとめるにあたり、宇都宮大学の大久保達弘教授から、貴重なご助言や資料のご提供を頂きました。また、図1については、独立行政法人放射線医学総合研究所の吉田聡博士の講演資料よりご本人の了解のもと掲載させて頂きました。心より感謝申し上げます。

引用文献

  • *1 吉田聡(独立行政法人放射線医学総合研究所)「原発事故による環境汚染と森林生態系への影響」:
    「カタストロフィー巨大災害と森林 —復興と再生をめざして—」 講演要旨集 P3
    (平成24年度独立行政法人森林総合研究所公開講演会 2012年10月11日開催)
  • *2 大久保達弘(宇都宮大学)「福島原発事故の森林生態系への放射能汚染影響を考える─第123回日本森林学会(宇都宮大学)公開研究会の概要報告─」:山林 第1541号 2012年10月 別刷 P39
  • *3 大久保達弘(宇都宮大学)「福島原発事故の森林生態系への放射能汚染影響を考える─第123回日本森林学会(宇都宮大学)公開研究会の概要報告─」:山林 第1541号 2012年10月 別刷 P40
  • *4 Sergiy Zibtsev(国立ウクライナ生命環境科学大学),Valerii Kashparov, Vasyl Yoschenko(ウクライナ農業放射線科学研究所)「基調講演1:チェルノブイリ原発災害後の汚染森林での25 年間の放射線影響研究の概説」:「福島原発事故の森林生態系への放射能汚染影響を考える─第123回日本森林学会関連研究会─」森林科学 No.65 2012年6月 P29

参考文献

写真

(※1)冷却塔 Creative Commons. Some Rights Reserved. Photo by vornaskotti
(※2)車両 Creative Commons. Some Rights Reserved. Photo by vornaskotti
(※3)4号炉 Creative Commons. Some Rights Reserved. Photo by stahlmandesign
(※4)森 Creative Commons. Some Rights Reserved. Photo by lord_yo
(※5)プリピャチ Creative Commons. Some Rights Reserved. Photo by ruben_solaz
 

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