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強く、しなやかに続く、物づくり。「ヤマチクの竹箸」

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編集部の森製品レポート

強く、しなやかに続く、物づくり。
「ヤマチクの竹箸」

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熊本県・北西部にある人口9,000人の小さな町、南関町(なんかんまち)。ヤマチクは、この地に根付いて国産の竹箸を作り続け、2021年に創業58年目を迎えるメーカーです。今回お話を伺ったのは、三代目・山崎彰悟さん。先代の伝統を継ぎながら、しなやかに変化し続けるヤマチクには、未来に繋がる物づくりのヒントが沢山散りばめられていました。

(編集部:うえだ

"竹の、箸だけ"の理由

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会社のキャッチコピーである"竹の、箸だけ"の通り、ヤマチクの事業は竹箸づくり一本。あまりに潔くシンプルなスタイルですが、その背景とは。

「箸は、遠い昔からずっと日本人と共にありました。古くから神事に使われ、日本の精神文化を陰ながら支えた道具であり、一日三回、毎日の食事に使われ、生命の営みを支えてきた道具です。人にとって、食べることは生きることですから。竹箸づくりに、並ならぬ誇りと拘りがあります。」

ヤマチクという会社には、竹箸に特化することで生き残ってきたバックグラウンドもある。

「ここ数十年の世の中の変化で、プラスチックや輸入木材、安価な海外生産品が主流になり、国産の竹製品の多くが駆逐されていきました。
箸作りも例に漏れず、プラスチック製の箸や、輸入した竹箸に日本で塗装や包装だけを施した"Made in JAPAN"の箸が増え、国内で生産を続ける箸の作り手はもう僅かしか残っていません。
漢字の"箸"は、竹かんむり。日本の箸のルーツは、やはり竹なんですよね。たとえば、魚をさく・ほぐすといった、日本の食事の様々な所作にすっと馴染むのは、軽くしなやかな竹箸ならでは。
僕らが生産を止めたら、いつか日本の竹箸は"博物館で見るもの"になってしまう。日本の竹箸文化を後世につなぐ担い手が必要です。これも、ヤマチクが竹箸づくりにこだわる理由の一つです。」

竹箸づくりで直面した、竹林業の現実

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物心つく前から、竹に囲まれて育った彰悟さん。

「日本最古の物語『竹取物語』も、"今は昔、竹取の翁といふ者ありけり。野山にまじりて竹を取りつつ、よろづのことに使ひけり。"と始まりますが、日本人にとって、竹は昔からとても身近な素材ですよね。生育が早くて丈夫なので、海外では"グリーンゴールド"と呼ばれるほど、サステナブルで有効な素材として高く評価されています。
南関町は有明海に近い地域なので、昔は海苔の養殖用のいかだや、踏切なんかにも竹が盛んに利用されていました。
僕自身は、竹箸づくりの家に生まれて、小さい頃から竹林をウロウロしたり、竹の端材でおもちゃを作って遊んだり、竹に親しんで育ちました。根っからの竹好きですね(笑)。」

大学卒業後、都市部で会社員を経験した後に、家業を継いだ。仕事として竹箸づくりに向き合い出して、大きく価値観が変わったという。

「竹箸づくりは、竹の切り出しから始まり、厚みの違う素材を規格化して、最終製品の箸に仕上げます。強烈に記憶に残っているのは、初めて竹の切り出しを見た時のことです。70歳の切子さんが、山の急斜面に分け入って、竹を切っていて。切り出しは、体力面の負担や危険も伴い、楽な仕事ではありません。だけど、やっとの思いで切り出した巨大な竹が、1本600円程にしかならない。切子さんの口から出た"こういう損な役回りの人がいないと、世の中は回らないからね"という言葉に、大きなショックを受けました。

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プラスチックや輸入品の波に押されて、竹を生業にする人が減れば、山は荒れていく。実際、40年前は熊本に30軒ほどあった竹の加工屋も、今は根こそぎ無くなりました。竹という素材だけでなく、竹に関わる仕事も、孫の代まで続けられるサステナブルなものに変える必要があると、強く思いました。竹を生業にする人が喜んでやれる仕事になれば、担い手が増えて、放置竹林も減っていくはずだ、と。」

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巨大な竹を山から切り出す切子さん。

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切り出した竹の皮を加工して、一本一本、丁寧に竹箸に仕上げます。

竹を生業にする人に還元される竹箸づくり

「竹箸づくりに携わる切子さんや竹材屋さん、社員の給料を下げずに持続できるビジネスをやっていきたい。"都会でサラリーマンをやるより儲かる職業にする"というビジョンを持っています。」

その一環として注力しているのが、自社ブランド製品の開発だ。

「ヤマチクとして発売した最初のプロダクトが、<okaeri(おかえり)>です。創業以来やってきたOEM(受託製造)と異なり、開発から販売までを一貫して自社で行うため、コストをコントロールしやすく、竹を適正価格で買い取れるメリットがあります。
ブランドというと、目新しい取り組みのように映るかもしれませんが、新しいことは何もしていません。竹のお箸がもつ温かみや使い易さといった、ヤマチクがずっと作り続けてきたものを、メッセージとして発信しただけなんです。でも、みんなが何となく感じていた竹箸の良さが、言葉にしたことでしっかりと届いた。自社ブランドをきっかけに、ヤマチクという名前を知ってくださるお客さまが増えました。切子さんや竹材屋さん、そして僕たち社員自身も、"いい仕事してるんだぞ!"と、今まで以上に自信を持てるようになりましたね。」

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左:本うるし細けずり箸、右:okaeriギフトセット(3膳セット)

ヤマチクしか作れない箸で、お客さまと繋がり続ける

ヒット商品「きずな箸」を生み出した、ヤマチクの 渡辺さん(手前)と右田さん(奥)。

ヒット商品「きずな箸」を生み出した、
ヤマチクの 渡辺さん(手前)と右田さん(奥)。

コロナの影響もあり、お客さまとの関係性に変化を感じることが増えたという。

「オンラインで物を買う機会が多くなって、"だれが作っているか"ということが、とても大事になってきたと感じます。
ヤマチクのお客さまは女性の方が多いのですが、実はヤマチク社員も、26名のうち22名が女性。プロダクトのコンセプト・デザイン・価格まで、社員自身が使い手の目線で考え抜いて、"自分が欲しいと思う箸"を作っています。菜箸やお子さま用箸は、子育て中の社員の実体験から並ならぬ拘りで形にしたものですし、社内コンペで大賞をとった<きずな箸>も、沢山のお客さまに手に取っていただいています。
最近は、"ヤマチクの作る箸だから買いたい"、"とても使いやすくてリピートした"といった声をいただくことが本当に増えました。一度買って終わり、ではなく、その先も長く深く繋がっていく。そんな暖かい関係性が生まれ始めていると、実感しています。」

ヤマチクから、地域を元気にする

事業を続ける中で大切にしていることは、「南関町に雇用を生み続けること」と「地域の自慢になること」だという。ヤマチクの竹箸づくりを支える切子さんは、現在16名。50~70代のベテランだけでなく、最近は20代の方も増えているそう。親世代からの繋がり、会社員からの転身、Uターン就職など、そのバックグラウンドは様々。

「南関町は人口が少なく、その4割がご年配です。地元の高校も廃校してしまいました。普通に考えたら、人が流出する要素しかない。だからこそ、"ヤマチクっていう会社が南関町にあるらしいよ"、"ヤマチクで働くっていいよね"と言ってもらえる仕事を、地域に生み続けていきたい。最初は誰もこないと言われたけれど(笑)、高校新卒の採用も、もう6年間続けています。」

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ヤマチクをきっかけに、地域や業種の垣根を超えたコラボレーションが生まれることもしばしば。

「南関町に住んでいると、町の中だけで生活や仕事が完結しやすいのですが、ヤマチクは地域の外と仕事をする機会も多い。だから、"あの人とあの人をつなげたら面白そう"といった発想は生まれやすいんです。ヤマチクをハブに、町外から人が集まるアイディアを仕掛けることは多いですね。南関町全体を元気づけたいという想いで、新しいことにもバンバン挑戦します。」

2020年秋にヤマチク本社で開催した工芸イベント「大日本工芸市」では、人口9,000人の南関町に2,000人(!)の人が訪れたそう。まさにヤマチクだからできた「橋渡し」ならぬ「箸渡し」ですね。


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イベント「大日本工芸市」の様子。沢山のお客さんのワクワクした気持ちが、写真からも伝わります。

隣の人や側にあるものを大切に、未来に繋がる物づくりを

伝統を受け継ぎながら、しなやかに変わり続けるヤマチク。最後に、山崎さんが胸に秘めた野望を伺いました。

「会社ってうなぎのタレみたいなもので、"創業からの秘伝のタレ"も、新しく注ぎ足していかないと、そのうち駄目になってしまう。竹箸づくりは、人がいないと続いていきません。だから、竹箸づくりに関わる人の仕事を保ち続けるために、これからもどんどん、新しいことに挑戦していくつもりです。
"SDGs"という言葉で括ると、すごく大それた話のように聞こえてしまうけれど、隣にいる人や、自分の身のまわりにあるものを大事にする。結局、そういうことだと思うんです。

密かな野望は、竹箸という言葉をなくすこと。世の中の認識を、"箸=竹!"に変えたいですね。
これからも南関町で、ヤマチクらしく、竹箸づくりを続けていきたいです。」

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「もうね、野望しかないです。」生き生きと語る、三代目の彰悟さん。ヤマチクのこれからが、とっても楽しみです。

編集後記

この取材をきっかけに、編集部メンバーも「ヤマチクの竹箸」を購入して使ってみました。スイスイっと軽いのに食べ物をしっかりと掴める、竹箸ならではの使い心地の良さを実感。竹の素朴な風合いも素敵で、食器棚に沢山あるお箸たちの中から、ついつい毎日ヤマチクの竹箸を取り出してしまう、今日この頃です。

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