「22世紀に残したい造園の書」と賞された、密かに愉しい一冊
書名が『造園植栽術』、著者は造園家で大学教授となれば、これはどう考えても専門書なのだが、まず表紙のデザインが専門書っぽくない。どこか美術書のような風格を漂わせた、和風というよりオリエンタルテイストを感じるデザイン。よく見れば「たぶのき」「あおぎり」など植物のイラストと名前が書かれていて、なるほど書名にふさわしい装丁だと納得する。
ページをパラパラとめくると、端正なレイアウトに絶妙な間で美しい写真が配置されている。これらの写真は、著者が大事に撮りためたものらしい。「山・里・まちのみどりの総体が日本の風景」にはじまる第1章は、森の表土や生物多様性などに触れ、第2章は地形と植生の関係など、初学者にも一般教養としてもわかりやすく、すっきりと説明されている。
続く第3章では、日本人の自然観と美意識、風土が育てる色彩感へと踏み込み、日本人特有の「陰影への礼讃」や「濁色文化」の話などは、個人的な興味とも重なって、つい熟読。一つの庭にも、こうした文化的背景が在ると思うと、造園というものの、あるいは著者の思想の奥行きの深さを感じる。
第4章からは、植栽手法、材料、運営管理など、より専門的な内容となるのだが、これがまた楽しい。難解さとは無縁だし、「配植は自然にならう」「陰があってこそ陽が引き立つ」「1つの置物が空間を変える」など、素人の庭づくりにも取り入れられそうな要素やヒントが満載なのだ。
著者の、日本の風景や日本人の美意識への思想、植物に対する知識、豊かな経験に裏打ちされた造園の技術と「愛」。それらが、庭から国土までの広々とした視界でまとめられている。造園に縁のない人でも楽しく読めて「滋養」になり、美意識が磨かれる…そんな素敵な本だと思う。
(編集部:おおわだ)