薬草の博物誌 森野旧薬園と江戸の植物図譜 (LIXIL BOOKLET)
著者:佐野由佳(ライター)、髙橋京子(大阪大学総合学術博物館准教授)、水上元(高知県立牧野植物園園長)、 金原宏行(豊橋市美術博物館館長)
出版社:LIXIL出版
価格:1,980円
江戸から今に伝わる、薬草と植物のマジカルワールド
「森野旧薬園」(奈良県宇陀市)は、江戸時代の薬用植物園が当時の姿そのままに残っている、日本最古で唯一の貴重な史跡だそうです。この本は、小高い山の斜面を利用した「森野旧薬園」の、豊かで美しい風景写真から始まります。
そこには、江戸時代半ばから一気に盛んになった薬用植物栽培のこと、国産化が奨励されたことなど、日本における薬用植物の歴史も紹介されています。
さらにページを繰ると、いきなり美術書のような世界に突入します。そこには、最近まで森野家門外不出であった『松山本草』と呼ばれる植物図譜をはじめ、さまざまな独自の観察眼で描かれた江戸期の植物図譜がずらり。「日本で最初の植物図鑑」ともいわれる『本草図譜』や、最後の本草学者であった牧野富太郎の植物図……。
タイトルの「植物図譜」という文字を見たときに浮かんだ、「記録のための植物スケッチかな」との想像は、気持ちよく裏切られました。一枚一枚が、精緻な描写と大胆な構図、鮮やかな彩色などを取り入れ、時に屏風絵のようであったり、美術としての味わいがあったりするのです。もちろん、それぞれに添えられた「薬効」の説明なども興味深く、どんどん薬用植物の奥深い世界へと誘われていきます。
ゆっくり散策を楽しんだり、時々眺めたりしたい、不思議な魅力の薬草博物誌です。
(編集部:おおわだ)