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曇った眼鏡をきゅっきゅと擦られるような。
毎朝、見慣れた道を歩く。かれこれ、何度歩いただろう?けれど、人に言われて初めてはっとする、ということは少なくない。この本は、曇っていた眼鏡をきゅっきゅと擦って、普段見過ごしていたものを見せてくれるような一冊。
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その名の通り、これは園芸家・柳宗民氏による雑草の解説書。「解説書」というと少し堅苦しい印象を受けるが、それとは違う。まず目次を開くと、「春」「夏」「秋」の文字の横に、カタカナで雑草の名前がずらり。「なんだか図鑑みたい」と思いながらページをめくると、個性的でなんとも愛らしい雑草の挿絵が描かれている。「ほぉ。ヒメジョオンってこんな花だったのか…」と、何度も目にしてきた雑草とあらためて対面する。
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文章もしみじみと味わい深い。全60編を通じ、各雑草の特性や来歴の解説に加えて、著者の愛情あふれるエピソードが綴られている。
美しい話ばかりでないのも面白い。たとえば「ヘクソカズラ」の章。“この草を千切って嗅いでみると、まさに屁糞のにおいがする。このような名前を付けられたのも致し方ないだろう。”なんて、残酷なことを言ってのける。それでも章の終わりは、“その花の可憐さからサオトメバナとも云う。この名を以って、汚名を雪ぐとよいだろう。”と結ぶ。
暖かくなったら、この本を片手にいつもの道の雑草たちと再会したい。
(編集部:うえだ)