饒舌なきのこ好きおじさんに連れられ信州の山へ!
冒頭のごあいさつに続いて「こんなふうにお使いください」というページがあり、その最初に「本書は図鑑ではありません」とある。ページをめくると、大きくきのこの写真があって、きのこの名前が表示されていて、解説文があるので一見図鑑っぽいのだが、読んでみると、自分のことを「しもじ」と呼んでいたり、ルスラという毒きのこ(ドクベニタケ)が出てくるたびに「モスラじゃない」と一言添えたり、なんだか饒舌なのだ。
そして「4月後半~」から始まって季節を追って紹介するきのこの解説文も、多くは「しもじ」さんが、いかにしてそのきのこと出会ったか、その時どんな喜びがあったか、あるいは他の人に取られてくやしくて、山には「ちくしょ~の声がこだまする、なんて書いてある。毒きのことして有名なベニテングタケを焼いて「こんなうまいきのこはねぇ~な」なんて言いながら食べているじぃさまが登場するなど、お堅い図鑑とは全然違うのである。
それが食べられるきのこなのか、毒きのこなのか、食べるならどんな食べ方がおすすめなのかなど、実用的な図鑑・事典としてもちゃんと役に立つ。しかしそれより何より、東京出身の江戸っ子が、たまたま縁のできた信州で、きのこを求めて山に入るうち、だんだん詳しくなっていった体験についておしゃべりしたくてたまらない、その楽しさこそを伝えたい、という気持ちがあふれている。
コミカルなイラストが添えられていることもあり、どのページにも愉快な気分がみなぎっている。読み進むうちに、きのこが好きで、食べることが好きで、写真が好きで、たくさんの「師匠」に教わって、面白い人との出会いを楽しむ「しもじ」さんのペースにすっかりはまってしまい、信州の山を歩き回りたいなあと思ってしまうのであった。
(編集部:たかしな)