よりコアに、よりディープに。全開で楽しむ虫目ライフ。
冒頭からアクセル全開。ためらいがありません。最初の12ページで約50点の虫の写真。ダメな人はここでもう離脱しそう。でも好きな人にはたまらない貴重なショットの大盤振る舞いなのです。または「これまで虫には関心なかったけど、何だか面白そう」と思えた人は、この本をきっかけに新しい世界が始まるかもしれません。『「虫目」のススメ』は巻頭からいきなり、そんな風に読者を大胆にふるいにかけてしまうのです。
きれいな形や不思議なデザインの虫やクモ、さまざまなイモムシ(実は筆者なイモムシ類が大変苦手です)、500頭を超えるカメムシの成虫、幼虫、びっしりの卵が次から次に出てきます。鈴木海花さんはアクセルを踏みっぱなしです。カーブにさしかかってもブレーキを踏みません。でも、おびただしい虫の写真と記述の先に面白い展開が待っています。
P42から始まる「虫愛づる姫vs台風」の章が象徴的です。台風が迫るある日。山梨県北杜市オオムラサキセンターで開かれたイベント「虫愛づる一日」には、杖をついて歩くおばあちゃんから、赤ん坊を背負う若夫婦、大学生、高校生、虫好きの子どもとその親と、文字通り老若男女が集い、虫目になってじっくりとフィールドで観察し、それぞれが好きな虫について語り合い、情報交換をし、イベント終了後、外は大荒れの天気なのに名残を惜しむようにアンケートにペンを走らせます。
前作『虫目で歩けば』で「虫が好きな大人女子というのは、けっこう孤独なもんです」と書いた著者が「もう孤独じゃない」と意を強くする光景です。時事通信社の昆虫記者さんとその息子さん、人気サイト「むし探検広場」の川邊透園長、ガを愛づる姫の川上多岐理さんと、その道の有名人も次々に登場し交流します。標本写真ではなく生体写真にこだわった昆虫図鑑のパイオニア『日本原色カメムシ図鑑』(全3巻)とその前身『カメムシ百種』の37年間に関わった人々を尋ね歩くレポートは、ほとんど「虫目達人列伝」といった感じで、虫愛づる世界の高みにちょっと憧れさえ感じてしまいます。
「虫目観光」編と銘打ったパートは、札幌、奈良、赤穂、石垣島と、出会う虫たちだけでなく、土地ごとのおいしいものの情報が楽しい章。ここでも、赤穂のアース製薬飼育棟でゴキブリ100万頭を含む100種類の虫を飼育する女性研究員の有吉さんや、石垣島の虫スポットを熟知して案内する入野さんなど、行く先々で出会うその道との達人との交流が読みどころです。次に旅行する時は虫目でまわってみようかな、という気持にもなりました。
※心配な方のために、念のため。ゴキブリの写真(だけ)はありませんので、ご安心ください。
< 参考 >
鈴木海花の「虫目で歩けば」━蟲愛づる姫君のむかしから、女子だって虫が好きでした。
昆虫ブログ「むし探検広場」 (川邊 透)
今夜も!Gavyori web版 (川上多岐理の蛾の研究)
(編集部:たかしな)