読めば「見る目」が育つ絵本
だんごむしを知らない人は少なかろう。棒か何かでつつけばくるりんと丸まってボールみたいになってしまう、あの虫だ。庭先で大きな石を動かしたり、植木鉢をどかしたりすると、あたふたと逃げ出したりする、あの虫だ。何しろちょっとつついただけでボールに変身してしまうので、子どもたちには大人気だが、大人になってもだんごむしが大好きだという人はあまり知らない。だからこのレビューもあんまり大人のみなさんには読んでもらえないのではないかと思うと、ぼくは自分がだんごむしになったかのように悲しい。子どもの頃はみんな、あんなにぼくのことが好きだったのに!
でも、せっかくなのでお付き合いください。素敵な絵本です。絵が全て貼り絵で、ほとんどスタイリッシュと言いたいくらいに美しい。デッサンは正確だけど、なまなましさはないから、虫を直視できない人でもそんなに抵抗はないだろう。なにより内容が面白い。だんごむしがコンクリートや石まで食べちゃうなんて知ってました? そう。だんごむしは枯れた植物や死んだ虫、人間の食べかすやダンボール、新聞紙など、なんでも食べてかたづけてくれる"自然の掃除屋"なのだ。絵本を読めばだんごむしたちが枯れ葉をきれいに食べる様子、四角いうんちをする様子、蟻から身を守り、もっと大きな生き物にひとのみにされ……と懸命に生きるさまが描かれている。脱皮の様子、子育ての様子を見るうちに、「今度だんごむしを見たらよく観察してみようか」なんて気持になって来る。そう。『ぼく、だんごむし』は「だんごむしを楽しむ目」を、そしてたぶん「自然を楽しむ目」を育ててくれる絵本なのだ。読む人がこどもであっても、おとなであっても。
(参考)
「森の生きもの観察」のコーナーの「森のつながりを探そう#3"嫌われもの"がつなぐ森の環」に、森のいろんな掃除屋さんが出て来ます。
http://watashinomori.jp/gotoact/linkage_03.html
(編集部:たかしな)