物語を背負う世界中の樹々に出会え、まるで樹木のスター名鑑
まず手に取ってパラパラとページをめくってみてください。世界中の(5大陸59カ所だそうです)、ありとあらゆる樹種の、美しく表情豊かな写真が次から次に現れます。その多くは樹齢が数百年、中には数千年という巨木で、その神々しさに圧倒されますが、一方で美しい花や果実の写真があり(それは例えば祇園の枝垂桜だったりニュートンゆかりのリンゴだったりする)、世界各地の生活感あふれる風景と一体化する写真があります。
「物語をもつ木」を追い求めて、風景写真家のダイアン・クックとレン・ジェンシェルの2人が2年間、世界中を旅しながら、樹々の写真を撮りため、それぞれの物語を書き添えてまとめあげたのがこの本です。ざっと国名を挙げるだけで、アメリカ、インド、イギリス、日本、インドネシア、オーストラリア、ニュージーランド、アイスランド、カンボジア、モザンビーク、ドイツという具合。
それぞれの木の物語のタイトルもどれも好奇心を刺激します。「お菓子屋さんの木」って何だろうと読み始めると、その木の下で屋台を始めたお菓子屋さんが繁盛してそのまま木を取り込んだ形でお菓子屋さんの店を構えてしまったという「昔ばなし」みたいなエピソードに出会えます(もちろんその店内の写真あり)。
「靴の木」というタイトルが気になって見に行くと、カリフォルニアの人気のない大平原に靴が鈴なりになった木が一本、青空を背景に立っている写真が出てきて、頭の中がクエスチョンマークだらけになります(どうしてそんなことになったのかは、本を読んでのお楽しみ!)。
どのページを開いても、個性あふれて魅力的な樹々のポートレート写真があり、それぞれが信仰の対象になっていたり、思わず人に話したくなる伝説を持っていたりします。一枚一枚写真を眺めながらそんなエピソードを読んでいると、まるで世界中のスター樹木に囲まれているような贅沢な気分を味わえます。樽の香りのするシングルモルトウイスキーでもやりながら、どうぞ!
(編集部:たかしな)
<目次>
◆序文
「気になる木は何ですか?」バーリン・クリンケンボーグ
◆樹々の物語
荒野に生きる、最高齢の木「太古の木」
世界で最も重要な巡礼地の一つ「悟りの木、菩提樹」
万有引力の法則 発祥の木「ニュートンのリンゴの木」
万病を癒やす、慈悲深い存在「女神シータラーの木」
過酷な地で生き続ける、魂の帰り道「愛の木」
北欧神話の一場面を体現「ナナカマドの霊木」
古い信仰が今に続く「マグナカルタのイチイ」
“次の世界"に生命を吹き込む「永遠の榕樹」
奇妙な米国版願い事の木「靴の木」
歴史を乗り越えた、400年の芸術「ヒロシマの盆栽」
再生と力強さを象徴する「9.11を生き延びた木」
紳士たちの勇気と名誉を見つめる「決闘の樫」
涼しい木陰に村人が集う「話し合いの木」
金塊が埋められた木「ターナーの樫」
歴史の劇的な転換点「奴隷解放の樫」
8万年を生きる地球上で最も重い生命体「パンド」
一人の女性が感じた特別な絆「ルナ」 ...など59話
◆後書き「木のこと」
◆献辞/謝辞
◆索引