「なんとなくいい」景色を丁寧に紐解き、庭づくりの極意を公開
まず手にとってページをめくってください。緑あふれる美しい庭の写真がこれでもかこれでもかと掲載されていて嘆声を上げ続けること間違いなし。造園家の著者が手がけた24の庭が、ページいっぱいの美麗な写真だけでなく、平面図・立面図、植栽の構成図、図解イラストとともに詳細に解説されています。
庭主の意向や、建築家がどのようなねらいをもっていたかも汲み取り、さらには地形や風土、周囲の風景との関係性などを考慮しつつ、その庭がどのようにデザインされたのかがよくわかり、作庭とはそういうものなのかとおおいに納得。広い面を覆うグランドカバープランツには芝生やコケやタマリュウなどがあって、それぞれどんな特性があるのかなどの解説には知的興奮さえ感じます。
既存のキンモクセイにヒントを得て香りを楽しむ樹種を選んだり、音を楽しむことを意識してデザインしたり、食べることを念頭にキッチンガーデンや、食卓を彩るハーブや食べられる木の実がとれる植栽にしたり。そこでどんな体験ができるのかまで考えた庭づくりは読み物としても面白く楽しめます。
第2部では、実際に庭をつくるための手法や技術、材料、工程などを、実践例の全行程を写真で解説するなど、この本は造園家のための教科書として書かれているらしいけれど、「私の森.jp」をご覧になっている方なら、みなさん楽しめることと思います。
特に、庭に興味がある人、間取り図を見るのが好きな人、そしてもちろん自分の家に「私の森」をつくりたいという人にオススメ。最初の方に出てくる事例が壮麗な建築ばかりで少々気後れするけど、ご安心を。木造2階建て、狭小空間、京都の町家など、親近感を覚える事例もあって、試してみたくなるアイデアもいっぱい。なんとなく雰囲気がよくて、住まいと引き立てあっている庭とはどういうものなのかをとことん紐解いた一冊。おいしいコーヒーでも手元に置いて、ゆっくりページをめくりながら楽しむのにぴったりです。
(編集部:たかしな)
<目次>
|第1部| 建物と引き立てあう緑の設計
1 スケールを操る
傾斜地に立体的な散策体験をつくる HX-villa
平屋に効く見え隠れのシークエンス 岐阜の家
1本の木を選び抜く“疎"の景 N Residence
小さな木立で誘う切妻屋根へのアプローチ I Residence
野趣あふれる軒と枝の取り合い T Residence
石と鉄で修景する段差と動線 玄以の家
木々のレイヤーで奥行を増幅させる F Residence
景色の断片を散りばめて暮らしを彩る 平屋建てのコートハウス
高木の列植で厚みのある陰影をつくる 名古屋の家
2 体験を落とし込む
細道空間を活かした緑のトンネル 石畳のある家
下草を密植して瑞々しさを可視化する 楓の庭
五感をともなう空間体験を点在させる 春日井の家
キッチンガーデンには余白と高さをつくる 別棟のある家
居室に馴染むワッフル状のインナーガーデン 羽根北の家
3坪の空間に設える茶事動線 ガエまちや
花見座敷をはめ込む滞留のデザイン 長良川の二世帯住宅
3 ロケーションに寄り添う
既存庭の引き算でつなぐ内外の抜け 刈谷の家
地元の植生を引き継ぐという選択 つくばの家
通りや家人の記憶を起点に修景する M Residence
異国情緒を愉しませるディテール 岡崎の家
住まいの履歴と風情を組み合わせる 理科まちや
4 まちにひらく
公私のバッファーとなる緑 O-clinic/O-house
木立に佇める通りの顔をつくる TG Residence
まちの森に育つ原っぱの庭 志賀の光路
column1 商店街の小さな森 Yanagase forest project
column2 リハビリのための緑道 近石病院
|第2部| 作庭の進め方
敷地と建築を読む
木を選ぶ
移ろう景色をつくる
素材の選び方
事例で読む木の役割