「人力」ならぬ、「馬力」で地域の景観をつくる。
この本には、福岡アクロスの緑化設計で知られるランドスケープ・デザイナー、田瀬理夫さんが岩手県遠野で取り組む「暮らしと仕事づくり」のこと、そこへ至る想いや考え方について語った言葉が、丁寧に綴られています。
遠野と聞けば「遠野物語」に出てくる馬と村娘の悲恋や「オシラサマ」を思い出す人もいるのではないかと思いますが、遠野は馬と人とが深く関わりあい、一緒に仕事をし、生計を立ててきた歴史がある地域。曲り家(まがりや)という、人の居住する母屋と馬屋が一体となった様式の住宅も残っていて、現在も訪ねることができます。
そんな遠野を選んで、田瀬さんが実践するのは「馬」のいのちの営みを取り入れた循環する有機農業と、馬付き住宅の運営による中山間地域の再生です。「馬」を飼い養い、堆肥を農業に活かす暮らしの実践。「馬」を飼うことで、いくつもの小さな新しい仕事が生まれ、仕事と暮らしを通して、その土地、自然との関係性が深まっていきます。
田瀬さんは、
「その地域に住んでいる人達が、本当に夢中になってやっていることが表にでてくるというか、それが結果としてまちにもなれば、景色にもなる」
「田舎や地方の景色が汚くなっているのは、農業や林業がちゃんと生業になっていないからだと思う」
といいます。
「日常性と社会性と地域性は、景色に表現される」ものであり、きれいな景色には「無駄なものがない」とも。
「馬」とある、美しい遠野の風景。素晴らしい写真がたくさん挿入されているので(撮影:津田直)ぜひ一度お手にとってご覧ください。
ちなみに、本書はいわゆる中山間地域の再生ドキュメント、といったような本ではなく、著者西村さんが2年にわたって田瀬さんが遠野でされることを見つめ、学び感じとった「大切なあれこれ」を一冊の本にまとめたもの。すぐには答えや結果の出ない環境や社会の課題と向き合いながらも、ページをめくるごとに、お二人が過ごしたであろう優しくて深い時間や、静かに遠くをみつめるような存在のあり様に、心の深いところが動かされる、不思議な佇まいのある本です。
(編集部:あかいけ)