複雑な時代を生き抜くヒントは、自然とのつながりの中に。
「山伏」と聞くと、天狗のような白装束をまとい、頭に丸いものを乗せた屈強な強面の男性を、私は思い浮かべます。ホラ貝も忘れてはいけませんね。
この本の著者、坂本大三郎さん(1975年生まれ)は、山形県の出羽三山を拠点にする、山伏兼イラストレーター。
10代後半~20代の頃は、東京でイラストレーターとして生活し、週末はクラブに音楽を聞きに行くという、デザイナーの私と同様、典型的な都市生活者でした。
そんな、若者が、なぜ、山伏修業をはじめたのか?
きっかけは、大学のゼミでの山伏修業体験で感じた体の変化。例えば、山登りでへとへとに疲れたときに食べる、タクワンのおいしさや、都会生活で見失っていた自然と向かい合った時の感動だったそうです。
その時の経験から、著者は、山伏たちが培ってきた文化とも言うべき「自然と共に生きる術」を通して、社会を捉え直してみることで、今の自分を取り巻く世界を知る手がかりになるのではと考えました。そうして、坂本さんは山伏の世界へ足を踏み入れることになります。
本書では、民俗学者の柳田国男や折口信夫の文献を引用しながら、日本の成り立ちと、山伏のルーツを、現代的な切り口で展開していますが、その中でも特に面白かったのは、色々な言葉の成り立ちについての記述でした。
例えば、
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山の中で人に声をかける時には「おーい、おーい」と同じ言葉を繰り返しました。
これは「おーい」と声をかけると山のモノノケは山彦のように「おーい」と言葉を真似て人を化かそうとするけれど、「おーい、おーい」と同じ言葉を繰り返して言うことが出来ないと考えたためでした。
今でも電話をするときに「もしもし(申し、申し)」と繰り返すのは、昔の人たちが電話の相手の顔が見えないことに不安を感じ、相手がモノノケではないと確かめるためのマジナイをした名残とも考えられています。
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私たちが日々、何気なく使っている言葉には、長い歴史と背景とがあり、言葉のルーツを紐解くことは、私たちのルーツ、社会、文化を遡ることにもつながります。
現代に生きる、私たちの暮らしは、物質的には、とても豊かになりましたが、その代償として自然とのつながりや「心」が、急速に失われていくような感覚があります。
私たちが暮らす社会は、どこに向かうのだろう?
坂本さんは、そのヒントを、自然と向かい合ってきた、山伏の文化を通して、捉えようとしています。
なお、現代の山伏はレインコートを携帯し、山岳地図をiPhoneに入れて、山の中で見ることもあるそう。美味しそうな食材を見つけた時には、さっとマイ調味料が登場するらしい。私の山伏イメージは大きく変わりました。結構おしゃれです、ヤマブシ。味のあるイラストも最高。
< 参考 >
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onyourmark MAGAZINE:僕たちと山
(編集部:こもり)