日記から詩、俳句、エッセーまで、山をつづる色とりどりの作品集
「読んで味わう山の楽しみ」というサブタイトルに惹かれつつ目次を見て、まず驚いたのは、松尾芭蕉も小林秀雄も日本山岳会会長の方も山小屋オーナーの方も、全て並列にズラリと作品が並んでいること。編集視点からすると、「章立て」をしたり、何らかの括りでグループ化しがちですが、この本にはそれが無いのです。また、文章のスタイルも日記、紀行文、エッセー、俳句、短歌、詩、昔話風など実に多彩で、読んでいると次々に表現が変わるので飽きる暇もありません。
「ひとりで山を歩くものにとって、焚き火は最も無口で、しかも陽気な伴侶である。心さびしいときは火を燃やせ、その陽気な顔をみつめよ。」そんな示唆に富んだ箇条書きのメモがあれば、雪山で友と訣別し厳寒の中で飢えと闘った越冬記録もあります。小林秀雄が中学3年で初めて登山をした時の「今から思えば慄然とせざるを得ない」エピソードも、「山の背くらべ」と題した『柳田國男全集』からの抜粋もあります。
そして、森好きさんが気になるタイトル「山の樹列記」は、「日本の山の特色をひと口で言えば、豊かで厚い植生を重ね、美しい草木の織りなす裳裾をめぐらしていることで、垂直分布の植物相の変化と言えるであろう」と、心惹かれる書き出し。豊富な登山経験をもつ著者の、ハイマツやケショウヤナギなど高地の樹木に対する観察眼や思い入れに引き込まれて、その場所に行ってみたい!と思いました。
この本を読んでいると「そこを歩いてみたい、登ってみたい」と思う瞬間が何度もあります。高尾山や御岳山を除けば高校時代の妙高山ぐらいしか登山経験がない私でさえそうなのですから、山登りが好きな方にとっては共感ポイント満載だと思います。拾い読みするだけでも山の面白さが味わえるし、それぞれの作者の引用元や関連作品まで読み広げれば、山を楽しむ奥行きがさらに深まりそうです。
(編集部:おおわだ)