転写された樹木の記憶、生命力。
パラパラと頁をめくると、プリミティブアートの模様のような、ロールシャッハのインクのしみのような、不思議なカタチが次々に目に入ります。独創的で美しいアート作品だなあと目を細めた次の瞬間に、これらがすべて木の年輪であると気づき、嬉しい驚きを覚えます。
この洋書のタイトルは「Woodcut」、ずばり「木版」です。木版と言えば、普通は「木の板に文字や絵を彫って」版にしたものが一般的ですが、これは「木そのものが版」になっています。さまざまな木の生きた証しである年輪を精緻に写し取った(その手法・プロセスも本の後半に写真入りで紹介されています)、木版画作品集なのです。
年輪の一部を拡大したものがまるで何か人体の細胞のようだったり、ぐーっと引いて見ると宇宙を思わせる遠大さがあったり、縄文時代の文様や力強い墨文字を思わせたり。時を刻んだ「輪」のさまざまな表情には圧倒されっぱなしです。作者が感知したであろう、木に宿る記憶や得体の知れない生命力がそのままここに転写されているかのように感じます。
この作品一つ一つに、たとえば谷川俊太郎さんの詩が添えられていたらいいなあ…と、そんな風に想像力をかき立てられるのも魅力の一つです。
洗練された美しい装丁で手に取りやすく、ただ眺めているだけでも静かに木のアートを堪能できるでしょう。「これは何に見える?」と、子ども達と対話しながら見るのも楽しそうです。
(編集部:おおわだ)