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色をいただいて、奏でる。美しい日本語で綴られた染織家の想いと祈り
以前は淡々と読んでいた本なのに、時間を経て再読したら驚くほど胸を打たれる。誰しもそんな経験があるのではないか。私にとってこの本がそうだった。
著者は染織家、紬織の重要無形文化財保持者であり、また随筆家でもある志村ふくみさん。その筆致は繊細で鮮やか、惚れ惚れするほど美しい。
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糸を草木で染めることを「草木がすでに抱いている色を私たちはいただくのである」と言い、「雪の中でじっと春を待って芽吹きの準備をしている樹々が、その幹や枝に貯えている色をしっかり受けとめて、織の中に生かす。その道程がなくては、自然を犯すことになる」と続ける。
また、「色の旋律」という一節では、機を織っているときの気持ちをこんな風にも表現する。「ほとんど迷いなく色が旋律する。いままで織った部分がつぎの色をほしがっている。つぎの音を奏でている。あやうい空中の橋を渡っているような部分こそ、色の旋律が鮮明にきこえる瞬間なのだ」。
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どのページにも、著者の自然との交感、協奏、自然への畏敬などの思いがあふれ、浴びても浴びても足りないほどに美しい言葉が躍っている。読んでいると目からの情報だけでなく、色の匂いや糸の触感、その場の空気まで感じられる。そして写真がまた絶品。色は光だということをしみじみ感じ、見惚れる。
草木染めや紬織に興味のある方はもちろん、美しい日本語が好きな方にもおすすめしたい。とにかく、手に取ってみてほしい。
(編集部:おおわだ)
<目次>
草木の生命
色をいただく
桜の匂い
樹幹の滴り
野草の音色
伊吹の刈安
くちなしの黄
藍の一生
緑という色
機のはなし
色の旋律
真珠母色の輝き
蚕は天の虫
生絹
無地の美しさ
媒染のはなし
光の旅
灰色の世界
裂の筥拾遺
湖北残雪
「道標」
雪-みちのく-鎮魂の色
藤原の桜
「運・根・鈍」
紬と絣
四十八茶百鼠
繧繝暈し
紫のゆかり
祇園の色
三幅前垂
着物と帯と
小物の美
これからの着物
蘇芳との半生
仕事が仕事する 文庫版あとがき 志村ふくみ
自然との交感 文庫版によせて 井上隆雄