2018年3月末、社会福祉法人 進和学園(神奈川県平塚市万田)の福祉作業所兼販売所であった「ともしびショップ湘南平」が、ホットケーキ・パーラー「湘南リトルツリー」を併設してリニューアル・オープンしました。
進和学園は昭和33年に設立された社会福祉法人で、知的障がいや身体障がいなど、ハンディを持つ人たちの社会参加を支援する法人グループです。『一人には一人のひかり』を標語に、保育園からはじまる教育施設、就労支援のための会社、高齢者のためのケア施設まで、生涯を通じてのサポート体制をつくってきました。
「ともしびショップ湘南平」ではそうした施設の利用者さんが作る陶器などクラフト製品を販売しています。
今回のリニューアルでは、障がいのある人もない人も一緒に過ごせる場所になるようにと、「ともしびショップ湘南平」を2階に移し、1階にホットケーキ・パーラー「湘南リトルツリー」をオープン。
清潔感ある白い漆喰の壁と、ユニークで魅力的な表情を描く木のインテリアが素晴らしいのでご紹介します。
ここで使われたのは、隣接する高麗山公園で伐採された老木や、街で伐採された樹木で、通常は産業廃棄物として処理されてしまうもの。庭木や街路樹など、街の木は木材として使うことを目的とせずに育つので、扱いにくい樹形になりやすく、虫に食われたり病気を抱えたりしながら立っている木も多いそうです。したがって、これらを木材として加工するには、知識・技術・経験、さらには忍耐とセンスが必要であり、「え?誰がそんな手間のかかることをするの?」という声が聞こえそうなほど。なのにここではなんと50種にものぼる街の伐採木が活かされているというから驚きです。
設計から施工・家具の造作までを手がけたのは、㈱建築と木のものづくり研究室代表の湧口善之(ゆぐちよしゆき)さんとその仲間たち。湧口さんは「都市森林」という概念をもって、扱いにくい街の伐採木を、身近な自然材として都市住民の生活に活かす活動を続けています。
廃棄されるはずの楠の木が、大テーブルに
お店の中心に置かれているのは楠の木材の「割り寄せ」とでも表現したいような造作の大テーブルです。木目が川の流れのように出会い別れていくさまは、勢いがあって力強い。ところが席についてみると、デザインの視覚的な力強さよりも、優しさや心地よさ、使い勝手の良さが伝わります。
これは川崎市の古いお屋敷に立っていた楠の木でした。代替わりで土地を整理することとなった家主さんが、なんとか活かして欲しいと湧口さんに相談があったのだそう。数世代にわたり庭に立っていた大きな楠の木は、これからここで焼きたてのホットケーキとお客様の笑顔を迎えます。
人の暮らしのそばで毎年実りを与えてくれる、柿、みかん、びわ、梅などの果樹も材として活かされています。果樹の椅子たちは座面を覆う布も一枚ずつそれぞれの自然素材を使って手染めしているそう。柔らかな表情がこの場所によく合います。
折り重なる地層のような表情の引き戸は、調布市のヒノキとアオギリ。カビが入って黒ずんだところのある材は、むしろ都会的なニュアンスを醸します。
壁に作られた小さな飾り棚に、カウンター前の寄せ木タイル、トイレの中まで、多様な樹種がそれぞれのディテールを主張しているのが楽しくて、見飽きることがありません。
「多様性と調和」がこの空間全体のコンセプト。このお店で、50種もの樹種がそれぞれ響き合い調和する様子は、ハンディもただひとつの個性であり、大きな自然の一部なのだと伝えているようです。
昔ながらの美味しいホットケーキ
ここのホットケーキは、2012年に惜しまれつつ閉店した神田の名店「万惣フルーツパーラー」の味を継承する由緒正しい(?)ホットケーキ。美食家で知られた作家・池波正太郎が生涯愛した味としてNHKなどでも紹介されました。銅板で焼き上げるホットケーキは外がサクっとして中はふんわり。懐かしくもやさしい昔ながらのホットケーキを嫌いな人がいるでしょうか。
珈琲もよく合いますが、進和学園の利用者のみなさんが福祉作業所で絞るトマトやみかんの100%ジュースも本当に美味しくてオススメです。
ぜひ、多様な木の表情を楽しみながら、美味しいホットケーキを堪能しに訪れてください。ロケーションは湘南平の山の上、見晴らしも良いところです。
*湘南リトルツリー(1F)
【住所】神奈川県平塚市万田790-24
【電話】0463-34-7041
【Facebook】https://www.facebook.com/SHONAN.Little.Tree/
【Twitter】https://twitter.com/sh_little_tree
*ともしびショップ湘南平(2F)
2階は自主製品作業スペースとして、また、ギャラリー、レンタルスペースとしても利用できるとのこと。
(取材・文:あかいけ)
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