編集部うえだです。2019年5月、幸運にもまとまった時間に恵まれ、北欧からバルト三国へと南下する旅へ出ることに。旅の出発地に選んだスウェーデンで、世界遺産としても有名な「森の墓地」を訪ねました。
ストックホルム中央駅から20分ほど列車に揺られると、突然、窓外が深い緑に包まれる。「そろそろかな」と思ったと同時、列車は速度を落とし、こじんまりとしたホームへ静かに滑り込んだ。
駅名板には「Skogskyrkogården(スコーグスシュルコゴーデン)」。
世界遺産としても有名な「森の墓地」である。
1915年に行われた「ストックホルム南墓地国際コンペティション」で一等をとった、建築家のグンナール・アスプルンドとシーグルド・レヴェレンツの設計で、25年もの歳月をかけてつくられた場所。現在までスウェーデンの人々に親しまれ続け、10万以上の故人がこの森に眠っています。
ちなみに、森の墓地の設計当初、アスプルンドとレヴェレンツは30歳。
まだ若い彼らが後世に残る墓地を構想したことに、少しの驚きを覚えますが、スウェーデンに根づく「死者は森へ還る」という死生観を思うと、とても自然なことなのかもしれません。
さぁ、森の墓地に足を踏み入れてみましょう。深い松の香りに包まれた道を通り、入口の門を抜けると、他のどの場所にも似ないランドスケープが現れます。
域内には、生命の循環を象徴する十字架のモニュメント、瞑想の丘、火葬場、5つの礼拝堂、そして約100ヘクタールの森がゆったりと広がります。
細く木漏れ日が射し込む森の中は、鳥のさえずりの他に音はなく、背の低い墓標が静かに佇みます。
旅を終えた命が、森に抱かれて静かに眠る。あまりにもシンプルなその空間に身を置いていると、心のざわめきが無くなり、自分の存在が消えていくような心地がしました。天国って、こんな場所なのでしょうか?
広大な敷地に人は意外なほど少なく、2、3時間歩いてすれ違ったのは10人足らず。お墓参りにきた家族、自転車に乗った若者、犬の散歩をするご近所さんが、それぞれの時間をゆったりと楽しんでいました。
礼拝堂の壁画には、スキーをしながら(!)この世を去る魂を見送る家族のイメージが描かれており、スウェーデンの人々にとって森の墓地が、いつでも日常とゆるやかに繋がった存在であることが感じられます。
森の墓地の一区画にある、少し珍しいお墓もご紹介しましょう。
Minneslund(ミンネスルンド)という共同墓です。この区画に個別の墓標はなく、芝生に遺灰を埋葬します。わかりやすい目印がないため、小さな看板を見逃すと、そこがお墓だと気づかないほどです。
匿名の共同墓であるため、身内は埋葬に参加できない、埋葬地点が明かされない、個別に花を植えることは許されないなど、厳しい規則もあります。
現在ではスウェーデン全土に500箇所以上のミンネスルンドがありますが、ストックホルムで最初につくられたのがここ、スコーグスシュルコゴーデンだそうです。
お墓のために森に手を入れる、ではなく、今あるそのままの森に眠るというスタンスは、とても自然で心地のよい在り方に思えます。
森の墓地では年間2千以上の葬儀が行われますが、およそ半数がミンネスルンドを選ぶそう。遺族が墓を管理し続ける必要がないことに加え、匿名ゆえの「死後はみな平等」という哲学も支持され、スウェーデンではとても浸透しています。
日本でも近年、自然回帰志向や非婚層の増加など社会環境の変化に伴い、「樹木葬」への関心が高まっています。二つの国は遠く離れていますが、どこか通ずるものがあるのかもしれませんね。
機会があれば、ストックホルムの森の墓地をぜひ実際に訪ねてみてください。
この場所に流れるピースフルな森時間に身を委ねて、きっと、忘れられない時を過ごせるはずです。
(取材・文:うえだ)
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