森林インストラクターをひとりじめ!
ファッションとしての森ガールが話題になったかと思うと、本格的に山に登るオシャレな山ガールも増えているそうで、森を思い、森を訪れて楽しむことがちょっとしたブームになっているらしい。できればこれが一過性のブームではなく、森歩きが誰でも気軽に楽しめるごく当たり前の習慣になればいいなと思う。そこで問題になるのが森での過ごし方、楽しみ方。
次々に山頂を制覇するのも、渓谷で釣りをしたりバーベキューを食べたりするのも、それぞれにとても楽しいけれど、そういうわかりやすい目的が必要なうちは、山や森はまだ「わざわざ行く場所」になってしまう。アトラクションを用意しなくても、ただ森の中にいるだけで面白がれるようになれたら、山や森はもっともっと身近になれるはず。
そんな時に使いたいのがこの本だ。著者(写真も撮っている)の渡辺一夫さんは森林インストラクターにして農学博士。専門知識も持っていれば、森歩きのガイドのプロでもある。だからこの本を持って森を歩けば専任の森林インストラクターを連れて解説をひとりじめするも同然というわけだ。
「PART1 関東近郊の特選10コース」、「PART2 森林観察を100倍楽しむために」の2部構成で、PART1こそ関東近郊情報だが、PART2は全国の森歩きファンの役に立つ森林観察の基礎知識がコンパクトにまとめられている。PART2にざっと目を通すだけで、森に足を運んだ時に見るポイントが変わるはず。いままで「山はいいねえ」くらいしか言えなかったのが、木々の葉っぱを観察して、「この辺は落葉広葉樹が多いから冬はかなり寒くなるのかな」なんて言い出したりして。
関東近郊限定の話にはなるものの、PART1も面白い。最初に紹介されるのが神奈川県の江の島。海水浴場のそばの観光スポットというイメージの強い江の島が、解説を読むうち関東地方沿岸に残された「本来の森」を観察できる魅力的な場所だとわかり、再訪を計画してしまう。ちなみに10番目に紹介されているのは、富士山の五合目あたりを等高線に沿って歩き、火山荒原から成熟した森まで、植生の様々な段階を味わう贅沢なコース。どのコースも観察ポイントと、そのみどころが詳しく紹介されていて、読み進めるうちにこの本片手に現地で確かめたくなるはずだ。
(編集部:たかしな)