嘆声を上げずにいられない豊かな森の表情たち
この写真集と同タイトルの、米美知子さんの写真展「森に流れる時間」を見に行ったことが自慢です。巨大に引き延ばされた作品に囲まれてまるで森の中に入って行くような展示会場でした。
その時にも感じたことですが、ページをめくるごとに「この人はこの写真を撮る一瞬のためにどれだけ長い時間をこの場所で過ごしたんだろう? どれだけ足を運んだんだろう?」と想像せずにはいられなくなる写真集です。それくらい奇跡的な一瞬に満ちた写真が多いのです。もやがたなびく先に朝日が姿を現す山頂からの風景。凍てつくような冬山を染め上げる夕陽。紅葉黄葉で五彩に色づく山肌に劇的な影を落とす雲。あたりを黄金色に輝かせる日ざしと靄のコラボレーション。
「森林浴」と題された若葉色が目にも優しい写真を見れば初夏のブナ林を訪れたくなり、表紙にも使われている「雨に唄う森」を見れば、雨の日のにしか味わえない空気感や気配を思い出し、「また雨の日に森に行きたい!」と思わされる。そしてつららや氷筍など自然が生み出す驚きの造形を見ると、まだまだ知らない森の魅力に想いを馳せる。森好きさんはもちろんのこと、あまり森になじみがない人も、何度も嘆声を上げたくなること間違いなしです。
「樹迫(きはく)」「姫咲く頃」「ベストドレッサー」など写真とタイトルのマッチングも魅力的。巻末のデータを見ると2003年から2012年まで10年かけて北は北海道から南は沖縄の西表島まで文字通り日本全国の森を訪ね歩いて撮り続けた写真のようで、その時間と距離の果てに、この宝物がぎっしりつまった写真集が生まれたのだなあと納得します。誰かを森に誘いたい時に見せると効果抜群!ではないでしょうか。
(編集部:たかしな)