森へ―ダリウス・キンゼイ写真集(絶版)
D・ボーン (著), R・ペチェック(著), 田口 孝吉 (翻訳), 中上 健次(解説)
出版社:アボック社出版局 (1984/01)
アメリカ開拓時代の林業を記録する、驚異的に鮮明な写真集
本書は、1900年頃のアメリカ北西部、ワシントン州にある開拓基地の町シードローウーリーを拠点として、記念写真などの撮影サービスを生業としていた写真師ダリウス・キンゼイの貴重な作品をまとめたものです。1970年に発見された4500枚にも及ぶガラス乾板とネガフィルムは、それからさらに5年の歳月を経て、写真師キンゼイ一家の記録とともに出版されました。アボック社のウェブサイトには、1975年の初版時からこの写真集の書評がひとつひとつ丁寧に掲載されており、今でも当時の大きな反響を辿ることができます。
まるで美術書のように豪華なこの装丁本が3版もされたのは、直径が6mを超える巨樹セコイアの迫力に向かう小さな人々の挑戦が、当時の写真技術としては考えられないほど鮮明に写し撮られているからです。かつてはアメリカ西海岸を覆っていた広大な巨樹の森。その巨樹を開拓民たちが命がけで伐り倒し、道を開いて行く。重機もない時代のちっぽけな人間の挑戦に驚嘆する一方で、何千年を生きた巨樹の伐り倒される瞬間を、あの悲鳴にも似た音を、想像します。
木を伐る事が人間の生きる環境を破壊することだなどとは夢にも考えなかった時代の野蛮で明るい空気が伝わってくるようで、失われた巨樹と文明との間に積み重なる時間の体積に押しつぶされそうでした。
昔からたくさんの多くの人を魅了してきた巨樹たち。本書は絶版ですが、前述のとおり、3版もされた本なので、探せば意外に見つかります。ぜひ一度ご覧になってみてください。
(編集部:あかいけ)