森と私たちの関わりを考えるための、大切な示唆を与えてくれる一冊。
この本は、1992年から93年まで「信濃毎日新聞」に連載された内山節氏のコラムをまとめたものです。連載が始まるまでの3カ月、著者が全国の森に分け入り、里を訪ね歩きながら思索したのは、日本人にとって森とは何か、森と人との関わりはどうあるべきかという根源的な問いでした。
著者は、白神山系のブナの森で美しい森の基準は何かと立ち止まり、蓄積され続ける森の時間と直線的に過ぎ去る人間の時間に想いを馳せます。北海道の根釧原野で内陸防風林をみて暮らしと森の結びつきを考え、津軽のマタギに会って森とともに暮らす村人の文化を思い、各地の林業地も訪ね歩いて林業の歴史から今を見つめ直します。そしてヨーロッパの森にも目を向け、木の文化を日本書紀までさかのぼってみるなど、その思考は縦横無尽に広がり、深まり、新たな問いを発します。時には、滞在する上野村のことや森林に興味を持った理由など、著者自身のことも語っています。
個人的にもっとも興味深かったのは、森の時間と人の時間のとらえ方でした。要約すると、こんな風になります。「数千年を超える古木が息づく、雄大でゆったり流れる森の時間。と同時に、森の時間は季節のめぐり、生命のめぐりという大きな循環の世界でもある。そしてこの循環する時間世界の中で暮らすものたちは、変化を求めてはいない。太古の自然と同じように今日の自然も生きようとしている。一方で、人間は変わりつづける直線的な時間のなかで生きている。過去は過ぎ去り、時間とともに人間はすべてを変化させる。こうして人間の営みは自然の営みを阻害するようになった。しかし、その両方の時間世界を共存させる文化をつくり出すときが来た。」
直進する時間世界を生きる中で立ち止まってじっくり考えたいとき、森と生きる未来を描きたいとき、日本人と森について学びたいとき……この本がきっと多くの手がかりを与えてくれると思います。
(編集部:おおわだ)
<目次>
第1章 森の営み・人の営み
第2章 暮らしの森から経済の森へ
第3章 森の文化・木の文化
第4章 森に生きた人々
第5章 森の時間・歴史の時間
第6章 森の歴史と川の歴史
第7章 日本近代史のなかの森
第8章 森と人との調和をめざして
第9章 山里からの思想
第10章 森にかよう道を歩きながら