「森の健康診断」は、森林ボランティアの中では比較的新しく、初耳という人もいるかもしれません。2005年、愛知県豊田市で始まった「森の健康診断」は、市民参加型の人工林調査です。2008年までに4回実施され(2009年も6/6に第5回を予定)、他の河川流域でも実施され始めています。「愉しくて少しためになる」を合い言葉に始まり、全国からも注目を集める「森の健康診断」とはどのようなものなのでしょうか。
しばしば指摘されるように、日本の森林の4割を占める人工林の多くは、荒廃が進んでいて手入れが必要だと言われます。ところが管理計画を立てる上では
といったデータが必要です。ところが、実はこれまで日本の森林について科学的な調査は行われていない状態だったのです。
長野県、岐阜県、愛知県を流れる一級河川の矢作川は、歴史的にも中・下流でたびたび氾濫し、最近では2000年の東海豪雨の際に、上流域で多数の土砂崩れが発生し、矢作ダムに土砂が流入し、大量の流木で湖面が埋められたと言います。流域は、人工林が多いものの、有名林業地でないため放置される割合が高く、過密状態で下草もはえず土がむき出しになり、土砂が流出しやすいという日本の放置された人口林の典型です。
そこで、登場したのが森の健康診断です。「参加者にとって楽しく、しかも科学的なデータを得られる市民参加の大規模な人工林調査を実施したい」という方針のもと、矢作川水系森林ボランティア協議会が立案し、森林研究者に相談をしながら実施計画を練り上げました。
第4回矢作川の森の健康診断を例に紹介すると、総勢7〜8人のチームごとに受け持ちポイントの調査をします。チームは、チームリーダー(人工林での作業に習熟した森林ボランティア)、自然観察サポーター、地元サポーターと、一般参加者4〜5名からなります。
特徴は、調査に使う測定器具のほとんどが100円ショップで手に入ること。これは誰でも無理なく始められることをめざしているからだそうです。
調査内容は「植生調査」と「混み具合調査」です。
調査そのものも「効率を追わず、ゆっくり楽しみながら」行うことを大切にし、自然観察や、地元の歴史や風物、暮らしを尋ねてみることを参加者に勧めています。チームに自然観察サポーターや地元サポーターを配しているのはそのためです。専門家でなくても楽しく取り組める「森の健康診断」は、「森の応援団」が増えていく取り組みだと言えるでしょう。
100円グッズを使ったユニークな調査方法は、こちらをご覧ください。
岐阜県「土岐川・庄内川源流森の健康診断」を皮切りに、愛知県内を流れる長良川、豊川、三重県・鈴鹿川、長野県・松本、滋賀県・南部流域と、「森の健康診断」は各地に広まり、チームリーダー育成のための出前講座も四国をはじめ各地で開講されています。2007年1月13、14日には豊田市で「第1回森の健康診断全国会議」が開催され、北海道から九州まで約230人が参加し、関心の高さを示しています。
(記事掲載月:2009年5月)