「森林ボランティアで木を伐りに行く」と言ったら、まわりの人に「植えに行くんじゃなくて?!」と驚かれてしまうかもしれません。「世界では森林が減っているので、木を切ってはいけない」という先入観はいまなお根強くあるようです。よく知っている人には言わずもがなの話ですが、日本の森の問題の一つには「人工林の多くが手入れされていないために荒廃していること」があげられます。間伐も、森を元気に保つための大事な手入れのひとつなんですね。
今回、「私の森.jp」のスタッフが体験取材したのは東京電力自然学校「森林ボランティア」の間伐・枝打ち作業です。東京電力の社内ボランティア研修のプログラムに特別に参加させてもらいました。
森林での間伐作業には危険がつきものです。そこで実際に現地に足を運ぶ前に事前講習会が開かれました。『みどりのボランティア あんぜん手帳』((社)国土緑化推進機構)という小冊子をテキストに、服装の注意点、持って行くべき携行品、危険な生き物、危険な植物をはじめ、安全な基本動作や、よく起こる事故とその対策など詳細な講習を受けました。
黒い服装はスズメバチにねらわれやすいので避けるべきこと、裾をしまうことが大切なこと、疲れた時に事故が起きやすいのできちんと休憩を取ることなど、後にその大切さを実感する実践的な内容が多いので、初めての人は必ず講習会を受けることをお勧めします。
いよいよ実際に森林に入って間伐作業を開始。けれどもいきなりノコギリを引き始めてはいけません。事前の講習会で習った通り、間伐作業は危険がいっぱいなので、特に初心者は、最初は入念すぎるくらい丁寧に手順を確認してください。服装は完璧か? ヘルメットはかぶっているか? 刺す虫への対策はしているか? ノコギリのネジはゆるんでいないか? などなど確認を終えたら、いよいよ伐木(ばつぼく)にかかります。
後で避難する時に足を取られるようなものがあったら除去する。
途中で他の木にひっかかったりしないか。隣の木とつながっているツルなどもあらかじめとりのぞいておく。
材として使用できる限りの低い位置で、倒す向きの頂点にノコギリを入れる。水平方向に幹の太さの1/3まで進んだらとめる。ノコギリを入れたのと同じ長さ分だけ上から斜めにノコギリを入れると45度の木片がとれます。ここが受け口。
作業の前に避難場所と、そこまでのコースを確定。受け口の下から1/3のあたりに水平にノコギリを入れ、受け口の2〜3cm手前でとめる。
木を倒す前に、笛を使ったり大声を出したりして周囲に「木を倒します」と知らせる。倒したら避難。うまく倒れなかったら必ずプロに相談して対処すること。思わぬ方向に倒れたり、倒れた木の根本が跳ねたりして、プロでも大事に至ることがあるそうです。少し慣れても油断せずに手順を身につけましょう。
間伐せずに残した木の枝打ちも大事な作業。ひとつは間伐同様、足元の地面によく日が当たるようにするためですが、もうひとつは残った木を立派な木材にするためです。杉の細い枝は簡単にポキポキ折れるので、それで枝をはらえたと思ったら大間違い。いい加減な枝打ちをしてしまうと、そこから腐って「死に節」ができる原因になり、材木としての価値を下げてしまうのだそうです。枝の根本のふくらんだ部分にそってきれいに落とすことが肝心です。
ポイント
大きな枝は自分の重さで折れて、幹の奥まで裂けてしまうことがあります。先に下に切れ込みを入れたり、幹から離れたところでいったん枝の大部分を落としてから、残った部分にとりかかるなど、丁寧に枝打ちするためにいろいろな工夫があります。
間伐や枝打ち作業を終えると、足元に落ちた枝などをきれいに片付けます。特に道路に面したあたりの地面がよく見通せるように片付けました。その理由を青柳林業の木下大吉さんに聞くと、「間伐は、ゴミの不法投棄への対策にも役立っています。暗い森だと道から見えないのをいいことにたくさんゴミを捨てられてしまう。間伐して明るくなって、見通しが良くなるとゴミも減る。これ、とても大事なことじゃないかな」とのこと。事実今回の間伐作業でも、ビンやカンやビニールや紙くずなど多くのゴミを回収しました。CO2削減とか地球温暖化とか大きな話も大切ですが、まずは目の前の森林を、気持のいい美しい場所にすることが第一歩だと痛感しました。
- 間伐が初めてのAさん
- やっぱり森に日が差して明るくなったのを見ると気持がいいですね。実家の裏庭で下草を刈ったり、枝打ちをしたり、間伐の真似事もしたことはありましたが、自己流でした。今回いろいろ教わって、きちんとした手順があるんだなと驚きました。せっかく正しいやり方がわかったので、家のまわりでも試してみたいですね。
- 間伐を体験済みのBさん
- 実は、以前に別な場所で間伐ボランティアに参加したことがあって、間伐作業に植林以上の手応えがあることは体験済みでした。今回の話を聞いて自分の会社ではどんな風にやっているのかなと思って見に来ました。そうしたら予想以上にきちんとやっていていたので、よかったなと思いました。ただ回数が少ないのが残念なので、社員向けのプログラムをもっと増やして年に何回も実施してほしいと思いました。
- 取材スタッフC
- 「私の森.jp」にかかわって、「木を植えるだけでなく、間伐をしたりして世話をしなくちゃ、日本の人工林は元気にならない」なんてさんざん言ったり書いたりしていながら、実際には間伐を体験していなかったので、待望の体験でした。間伐の初心者が30人、2日合わせても5〜6時間程度作業しただけで、風景がはっきり変わったのに感動しました。