ニュース&トピックス

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私の森.jpでも取材をさせていただき、記事を掲載している矢野智徳さんの「大地の再生」活動がドキュメンタリー映画となって全国を回ります。

映画「杜人」は、2022年4月15日にアップリンク吉祥寺で公開初日を迎え、その後全国各地の映画館で順次公開上映されます。東京、京都、大阪、横浜では、舞台挨拶・トークショーも行われるそうです。
ぜひ、映画館で、矢野さんの自然を学び、敬い、再生に向かうその作法と、全国に広がる「大地の再生」の活動の様子を確かめてください。

ページ最後に、前田せつ子監督によせていただいたメッセージを掲載しています!

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■杜人(もりびと)〜環境再生医 矢野智徳の挑戦
https://lingkaranfilms.com/

■トークショー情報
 東京(吉祥寺) https://lingkaranfilms.com/?p=783
 京都、大阪、横浜 https://lingkaranfilms.com/?p=791

 


編集部より

<映画を見て、ぜひ活動にご参加ください>

「大地の再生」は矢野智徳さんが始めた、人為的な開発によって傷んだ大地を再生する活動です。再生の原理は物理的にはシンプルで「つまった大地に空気の流れを戻す」こと。園芸をする人なら、植木鉢の土がつまると植物の元気がなくなるのをご存知でしょう。
けれど、大地を再生する作業はそう簡単ではありません。自然は植木鉢の中ほどシンプルではなくて、様々な要因が複雑に関わり合ってその現象を作り出しているからです。

それぞれの場所ごとに、地形や気候風土、条件が異なるから、それを注意深く読むことから矢野さんの作業がはじまります。土地の見立てが終わると、矢野さんは自然の一部になって語り始める。風になり、虫になり、獣になってそれぞれがどう振る舞っていたかを。その様子はまるで詩人のようで、聴く人の想像力をほぐし広げていきます。

「結」とよばれる市民参加型の作業には、誰にでもできる単純さがある一方で、「自然に倣って作業する」ことの、難しくおもしろい作業が印象に残っています。私自身も何度か参加させてもらっていますが、一瞬一瞬が工夫の連続で、失敗と成功の繰り返し。でも参加者それぞれの作業の集合が、やがてひとつの現象となり、再生シナリオの要因として自然の営みに編み込まれてゆく。その手応えが、この活動が支持を得て活動を広げてきた理由でもある様に思います。

近年、環境問題について話すときに「土」というテーマが話題になることが増えました。土壌は地球の陸地を構成する自然物で、陸地の生物に場所と栄養を与える「大地」を構成します。人間も土壌がなくては生きて行けないのに、土は、人が生活するあらゆる場所で、コンクリートに覆われてしまいました。「土」が隠されてしまったことで、私たちは「大地」に関して無知・無感覚になってしまったように思います。

一人でも多くの人にご覧いただき、「大地」の声を聴いて欲しい。この映画を撮ってくださった前田せつ子さんに心からの尊敬と感謝を。応援しています。

(編集長:あかいけ)

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映画「杜人」より

<まだ間に合うと信じて>

矢野さんに初めてお会いしたのは2012年、高尾山でのワークショップだった。「移植ゴテ一つを使った最小限の介入により水と空気の流れを改善すれば大地を再生できる」という方法論に大いに共感し、その後、私の森.jp編集部でインタビューをさせていただいた。当初から矢野さんは「呼吸をしている限りはまだ間に合う」と、瀕死の自然環境を救う活動をコツコツとされていた。それが今では日本全国へと広がり、多くの人の心を揺さぶり、行動を変え、一つのムーブメントとして根付きつつあることをこの映画は伝えてくれる。そして、地球規模で天災が多発する今、私たちは生き物として何ができるのか、次世代に何を渡せばいいのかを示唆してくれる。自分自身の呼吸は大地の呼吸の一部であることも実感した。未来のために行動し続ける矢野さんはじめ「杜人」のみなさんを応援しています!

(おおわだ)

<杜人の目を学ぶ>

自分自身の身体の中の呼吸と血流のように、風の流れや水の流れは大地の呼吸であり血流なのだという話。ことばで読んだり聞いたりしてわかった気になっていたけれど、大間違いだった。映画を観てぐっと肉付けされたように感じた。風に倣って鎌を振るい、塞がれた水脈の詰まりをなくすとはどういうことなのか、存分に体感できる貴重な記録だ。本当は、実際に矢野さんのいる現場で移植ゴテを手に1日働けばもっと深く身になっていくのだろうとも思うけれど。防災に関わる身として「Ⅳ土砂崩れは大地の深呼吸」は全ての関係者に見てほしいと感じた。コンクリートでガチガチに固めて水脈を塞いだ結果災害がひどくなる現象。同時に、すでにあるコンクリートについては、"敵としてではなく、大岩として利用する"というしなやかな姿勢。全編学びの多い映画で、見終えると風景の見え方が変わったように感じる。

(たかしな)

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映画「杜人」より

  

<杜を広げるために>

矢野さんの手がけられた現場をモデルケースに取り上げながら、大地の再生の根源にある考え方、そして実際にどのように作業がされるのかという具体的な内容まで、分かりやすく紹介されています。

"杜(もり)とは、「この場所を 傷めず 穢さず 大事に使わせてください」と人が森の神に誓って紐を張った場"という表現が出てきます。まさにその精神を体現して、大地と向き合い、その声に耳を傾け、生命を再生させる様に感服すると共に、自分とその周りの環境を見つめ直す気持ちが自然と湧き起こりました。

自然災害が日常でもある今、私たちの誰しもに、気づきと学びを与えてくれる作品です。一人でも多くの方に届きますように。

(うえだ)

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映画「杜人」より

前田監督からのメッセージ

「私の森.jp」は私にとって、とても大切な、原点とも言える場所です。

2014年、国立市のさくら通りの桜が、道路の改修工事に伴って全部新しい桜に植え替えられる計画が浮上したとき、「本当にそんなに傷んでいるの? 矢野さんに観て(診て)ほしい」という声があがりました。当時、市議会議員だった私は初めて矢野さんに連絡をとり、そして検索して出てきたのが「私の森.jp」でした。

「呼吸をしている限りは、まだ間に合う。大地の再生」

この記事で私は初めて矢野さんと出逢い、その生き方、自然の見方に衝撃を受けたのでした(その後、矢野さんはすぐに私たちの声に応えて駆けつけ、桜を守る活動に参加してくださいました)。

市議の後、フリーランスの編集者に戻りましたが、ずっと矢野さんの「視点」を伝えなければという想いに駆られていました。その視点を持つことで、世界が違って見えてくる。それは苦しさ、罪悪感を連れてもくるけれど、同時に、自分自身を救ってくれる。初めて矢野さんの言葉、動き、佇まいに出逢った時に感じたあの震えるような懐かしさは、きっと誰もが感じることで、それを皆でシェアしたいと思ったのです。

映像を撮ることも編集することも初めてでしたが、とにかく追いかけようと決め、2018年5月、旅はスタートしました。訪れた現場は30箇所を超え、撮影時間は500時間を超えました。

映画に収めることができたのは、ほんの一部です。そして映画からは触感、匂いはもちろんのこと、詰まった大地に風が通ったときのあの清々しさ、皆で作業するときのなんとも言えない幸福感は伝わりません。泥と汗にまみれ、とっぷりと日が暮れた後に現場を笑顔で後にする人たちの後ろ姿をカメラのこちら側から見つめながら、どれほどあの中に混ざりたいと思ったかしれません。

この映画をきっかけに、活動に参加してくださる人が増えることを、そして、「杜」という言葉が蘇り、生きとしいけるすべてのものが、この地球を生きる仲間として慈しまれることを、願ってやみません。

2022.4.14 前田せつ子