と聞いたら何が思い浮かびますか?備長炭で焼いた肉や魚?それとも電磁波対策?毎日飲む水や炊飯器に入れたり、室内やトイレに置いているという方も少なくないでしょう。
食べ物や飲み物を美味しくする働きや消臭・除湿効果、やすらぎやリフレッシュのために、ガーデニングにと、暮らしのさまざまなところで見直され活躍している炭。第二次世界大戦後に石油や都市ガスなどが普及する以前は、産業や都心の一般家庭でも普通に用いられる燃料でした。化石燃料を燃やしたときのように大気中の二酸化炭素量を増やすことなく、また、木を植えて育てることによって再生産できる資源を人々は昔から愛用して来たのです。
生産、再利用という面で、実に徹底していたのが江戸時代。歴史上、世界にも類のない商売だと言われている「灰屋」という職業が存在しました。炭や薪から出る灰を家々から集めて来てそれを売り、巨万の富を築いた豪商も少なくないとか。彼らは灰を集める「灰買人」を多数かかえ、市中から安価で買い集めてくる灰を一箇所にまとめて、「市」まで立てて多量の灰を動かしていたといいます。一体全体、単なる灰がなぜそんなに売れたのでしょう?
灰買人は、町内のかまどや火鉢の灰などを集めては灰屋(問屋)に納めました。
集めた灰の主な売り先は、農家、造り酒屋、和紙製造、染め物屋でした。灰の主成分は炭酸カリウムで、水に溶けると強いアルカリ性になることから、苛性ソーダや炭酸ソーダがなかった江戸時代には灰が代用になっていたというわけです。農家では土壌の改良や肥料に、造り酒屋では酸っぱい酒ができないよう酸の調整に。藍や紅花による染色では、灰を使うと色調を多彩にあやつれ、また、陶器を焼くときの釉薬(うわぐすり)としても活用されていました。
山の木から炭をつくり、それを燃料にして、燃やした後の灰をまた利用する。ここまで無駄のない資源活用を私たちも見習いたいものですね。