スノキは神社や公園などでもよく見かける「身近な森」のひとつです。『となりのトトロ』に出て来た大きな樹を思い浮かべる人も多いことでしょう。クスノキは巨樹になることでも知られていて、日本で1位の蒲生の大クス(鹿児島県蒲生町)は、樹齢なんと1500年とも言われていて、幹周が24m、樹高が30mもあります。
クスノキの枝や葉には独特の匂いがありますが、これは成分の「カンファー」、別名「樟脳(しょうのう)」の匂いです。防虫剤や防腐剤としておなじみの樟脳の匂いですね。強い刺すような香りとされますがナフタレン(ナフタリン)以降の化学物質の防虫剤とは違う、郷愁を誘う香りでもあります。香料の成分や、花火の添加剤としても使用されるそうです。
ちなみにこの「カンファー」のオランダ語読みは「カンフル」。いまでも「ダメになりかけたものごとを再び活性化する措置」を「カンフル剤」と言ったりする、あの「カンフル」なのです。これは、カンファーがかつて強心剤として使われていたため生まれた比喩的表現です。現在でも、血行促進作用や鎮痛作用、消炎作用などを活かして、主に外用医薬品の成分に使われています。
クスノキの葉と果実。葉は先の尖った楕円形で、長さ5〜7cm前後。葉をもむと樟脳の香りがします。
脳はセルロイドを合成するためにも利用されます。現在ではピンポン球やギターのピックなどで見るくらいしか機会のないセルロイドですが、プラスチックの出現以前には便利な合成樹脂として、写真や映画のフィルム、アクセサリー、万年筆、眼鏡フレーム、おもちゃなど、暮らしの中に幅広く活躍していました。20世紀初めごろの日本は台湾でクスノキのプランテーションを経営していたため、世界最大の生産国だったことを知っていますか?
縁日などで樟脳船を見かけた人もいるかもしれません。船の後ろに樟脳をつけると水の上をすいすい進むというものです。これは、樟脳が水の表面張力を下げるため、船の前後で表面張力に差ができて、表面張力の高い方向に引っ張られていくという原理だそうです。家に樟脳がある人は試してみてください。ただし、樟脳は飲みこんでしまうと有毒なので、小さなお子さんのいる家では扱いに十分に気をつけて!
どことなくレトロな文化の香りがするクスノキですが、近所で見かけたら「ああ、樟脳のとれる樹なんだ」なんて、ちょっと思い出してみてください。
蒲生の大クス(鹿児島県蒲生町)
「蒲生のクス」は、昭和27年3月29日には国特別天然記念物に指定されている、日本で一番大きな木です。蒲生町は、鹿児島県のほぼ中央部に位置します。その高台にある蒲生八幡神社境内に「蒲生のクス」はそびえ立っています。