「国産の間伐材や端材を使った割り箸を使えば日本の森のためになる」という話を聞いたことがありますか? この話はその通りなのですが、実は、残念なことにわたしたちがふだんの暮らしの中で国産材の割り箸に出会うチャンスはかなり小さいのだそうです。江戸時代から、割り箸は日本の木を使ってつくられていましたが、現在ではそのほとんどが、低価格の輸入材に置き換わっているためです。
2005年の統計ですが、日本で消費される割り箸の98%は輸入割り箸(うち99%が中国産)というデータがあります。国産材の割り箸は中国産の割り箸に比べて価格が高いことを考えると、わたしたちが無料で手に取る割り箸は、ほぼすべて輸入割り箸だと言えるかもしれません。それでは、国産材を使った割り箸はいったいどこへ行ってしまったのでしょう?
元を正せば、割り箸は長い歴史を持つ日本の文化です。奈良県下市町に伝わる宝永6年(1709年)に書かれた古文書に「わりばし」に関する記述があるそうなので、少なくとも300年は歴史があることがわかります。
割り箸発祥の地でもある奈良県吉野地方は、古代からスギやヒノキが多く生えており、奈良時代から伐採が進み、文亀年間(1501〜1504)に植林が行われたという記録があります。林業が盛んで、建築材だけでなく樽や桶の部材も提供し、やがて残った端材の有効活用として箸がつくられはじめます。放っておけばそのままゴミになる端材を無駄にせず、箸としての役目を持たせたわけで、まさに日本に元々根付いていたもったいない精神の産物だといえます。
完全に2本に割ってしまわず、少し残して切れ目を入れて、食べる直前に割って使う割り箸のアイデアは、縦に割れやすいスギの特性をよく知る吉野の職人の間から出てきたものでしょう。
実はこの「食べる直前に割って使う」という点こそ、割り箸の大きな特徴です。塗り箸もナイフやフォークも、何度も使う食器です。けれども割り箸は、自分が割るまで使われたことがないのです。衛生面での清潔さももちろんですが、ハレの日に1回きり用いられる「白木箸」にも通じる、精神面での清浄さのイメージも日本の文化に合っていたのでしょう。
実際、礼儀作法の面でも、塗り箸よりも1人1回きりしか使用しない割り箸の方が格が上とされています。少し意外ですが、割り箸は本来客人をもてなすための「ハレの日」の食器だったのです。
ぱしっと小気味よく割って香りをかぐことは、食事の前のちょっと改まった儀式なのかもしれませんね。吉野は、高級割り箸という分野に特化したことで、低価格競争と一線を画して、今もその技と品質を伝えています。伝統ある国産材の割り箸を手に入れたければ、吉野杉にこだわってみるのもいいでしょう。
どうしても「1回きりで捨てるのが気になる」という人は、1年使って自然に還す使い方を提案する「一年箸」や、製紙会社の割り箸回収運動などがあるので参考にしてみてください。また、「なるべく輸入割り箸は使いたくない」という人は、国産材を使ったお気に入りのマイ箸を探してみませんか?