上田穣さんは、高校卒業後「親父に無理に言われて仕方なしに」農業を継いだそうですが、35、36歳のころから苗木産業を本格的に始め、いまでは県下でも最も優秀な技術をもつ苗木生産の名人と目されています。郷土品種の兎塚(とつか)スギや小代(おじろ)スギの生産に力を入れ、苗作りにこだわりをもって取り組んでいます。全国山林苗畑品評会において農林水産大臣賞、林野庁長官賞などを受賞し、近年は、ケヤキ・ミズナラ等の広葉樹の生産にも着手しています。
いい苗ってゆうのは、枝の張り方が三角になっているやつです。枝張りもいっぱいの方がいいですね。枝同士の間隔も、伸びすぎず、狭すぎず。そんな苗を作るコツは、観察と緻密な心づかいです。
例えば、「苗木が肥料ほしそうな顔してるかなあ」とか絶えず気にしてやって、ぐうっとしんぼうするのと、しっかり手を入れてやるのと、二つの愛情を持っとらんといけん。僕が苗作りを始めてからだいたい50年経っとるんですけど、それは、まだ50回しか作った経験がないとゆうことです。たったの50回しか、僕、経験がないの。まだまだですね。
僕にとっては、きれいな森づくりが目的です。出荷された苗は山に植えられて木材になるのがほとんどですけど、ケヤキなどの広葉樹は景観用の里山や、地すべり防止にも利用されます。
広葉樹林は保水力が高いんですよ。空気も浄化します。やっぱり広葉樹も植えて混合林を作らんといけんと思う。
昔はいっぱい個人で里山づくりをしてくれる人がおりましたけど、今は全然です。そのせいで、山は1年中陰かげって、光が十分に入ってきてない。「山が抜ける」とゆうか、山肌が赤くなってるんです。間伐して、光を取り込むのがいいんです。光によって、木が太るようになりますから。元気な苗を出荷して、山主さんに、「木がきれいに活着したよ!」とか、「きれいな山になったよ!」と喜んでもらえると、とっても元気づけられます!
上田穣 兵庫県美方郡香美(かみ)町 68歳(取材当時) | |
足立沙織 兵庫県立柏原高等学校1年(取材当時) |