こま鳥の銘で知られるヘラ竿師の山上寛恭(やまうえひろやす)さんは、高校卒業後、すぐに先代だった父親に弟子入りしますが、9カ月後お父さんは亡くなってしまいます。その後伯父の元で修行して、以来、39年竿師として活躍し続けて、今までの制作本数は2000本以上。握り部分に、漆器の世界で知られる卵殻を使った技法を用いた個性的なデザインが名人の工夫です。
1本の竿ができるまでに130以上の工程があるんです。1本の竿ができるまで、4ヶ月から6ヶ月かかるんです。(例えば)原竹とは山へ行って竹を伐ってくることですわ。竹を伐ってきて、ヘラ竿で使える竹を選んで、その竹を乾燥させることです。干し方は竹を伐ってきてから、5ヶ月間は天日干しでお日様のしたで乾かしその後、陰干しといって倉庫に入れてゆっくりと干して乾燥させます。そこから2、3年おいた竹で生地組をしていくんですわ。
いきなりやけど、単純に小さい魚を物干し竿みたいな竿で釣っても圧倒的に竿の方が勝ってしまう。大きい魚を繊細な細めの竿で釣っても魚が勝ってしまうんで引き合いができない。極端な話、朝青龍と小学生が相撲をしても勝てない。小さい魚を釣る時には繊細な細めの竿を使い、大きい魚を釣る時には太めのしっかりした竿を使うんです。そうした方が魚との引き合いがおもしろいんですよ。魚に合わせて異なった竹の組み合わせをしてるんです。
竹竿は真竹(まだけ)、高野竹(こうやちく)、矢竹(やだけ)の3種類の竹で出来てるんですよ。その3種類を組み合わせて、1本の竿が出来るように竹を選んでいくのが生地組なんです。 極端な話、釣っている時の竿の曲がりが六角形みたいに繋ぎ目がカクカクになっていたら綺麗に手元に魚の力が伝わってこない。カクカクして曲がったところに力が溜まってしまうんです。ですから、最終的に魚を釣っている時に、竿が綺麗な半円を描くようなバランスになるよう組み合わせるんです。
釣りをしていてね、手に引きが伝わりやすい竿として竹竿が適してるんですよ。なんでかっていうとね、魚が竿にかかって手元に引いて来るまでの間の、手に伝わってくる前後左右の魚の動きを楽しむんがヘラブナ釣りなんです。ヘラ竿として、魚相手に綱引きみたいなやりとりがしやすくて1番楽しめるのが竹竿なんですわ。
山上寛恭 和歌山県橋本市 56歳(取材当時) | |
平田真 天理高等学校2年(取材当時) |