あなたの家の近くに、「行きつけの森」はあるでしょうか? 自転車で気軽に行けるくらいの近さならいいですね。 近くに森があるらしいのは知ってるけれど行ったことはまだ・・・という方、一度足を向けてみてください。 最初はよそよそしいかもしれませんが、何度か通っていれば、そこがあなたの森になってくれます。 森には知的好奇心を刺激し、興奮を呼ぶ生き物の多様さ、複雑ないのちのつながりがあります。 大人にとってこそ、多くの学びと癒しをくれる森、ぜひ「行きつけ」にしてみてください。
さて、あなたの森はどんな表情をしているでしょう。森の入り口を探して縁に沿って歩くと、その森の表情が見えてきます。
木と木の間隔があいていてすっきり、森の中がよく見通せる明るい森はよく手入れされた森。「ようこそ森へ」って感じでしょうか。
縁(へり)にツル植物が絡まりあっている森もあります。最も目立つのは秋の七草のひとつ、クズ(葛)の大きな葉ですが、 たいがいノイバラなどとげのある低木やアザミが生えていて、 そこにスイカズラ、ヤブガラシ、ヘクソカズラ、カラスウリ、エビヅルなどツル植物が高木の頂(いただき)を競い合うように繁茂しています。 それはまるで森がマントをまとっているよう・・・ということで、マント群落といいます。 「マントというよりカーテンじゃないの」と言った方、それも正解!カーテン群落という呼び方もあります。 要は、横からの太陽の光を求めてどんどん伸びるツル植物が絡まった結果、ごちゃごちゃとカオスの様相を呈してマントだかカーテン状になるのです。 結果として森林の傷付いた部分をいち早く覆って、森の内への日差しや風を遮り、林内の湿度を保っているとのことなので、 「かさぶた群落」とも言えそうです(…が、今思いついただけなので忘れてください)。
そして上方から注ぐ日光をめぐっては、高木が少しの隙間でも埋めるように枝葉を伸ばしあって、 ドームの屋根みたいな樹冠(じゅかん)を作っています。 森の中のひんやりと湿った空気は、閉じた樹冠とマント群落の、文字通り“お陰”なのです。
さて、マント群落は、道路や田んぼ、畑、原っぱ、湿地など、開けたところと閉じた森の「つなぎめ」にみることができます。 ここでは、「食う・食われる」生き物のつながり、いわゆる食物連鎖の出発点である植物の光合成が盛んに行われています。 なんせ、たっぷりの陽を浴びてツル植物はするする伸び、我先に葉を広げる。 花も次々と咲かせる。日当りを巡って陣地を取り合う熾烈な競争が繰り広げられています。 「うまみの大きいところは競争が激しい」というのは、ビジネスの世界でも生き物の世界でも真理ですね。
こんどは、マント群落を「アリの目」で見てみましょう。(自然観察では「鳥の目」で見る見方と「アリの目」で見方があります。)
いたるところ虫がいっぱいです。植物が繁茂するところには動物が群がる、これは間違いない。 葉っぱのうらにアブラムシがびっちりといて、アリも集まっています。 アブラムシとアリのつながりをご存知ですか?アリはアブラムシの出す甘い汁を貰い、アブラムシにとって良い植物へと誘導するのだそう。 学校で習ったという方も多いのでは。
そしてクズには、マルカメムシとコフキゾウムシがこれまたたくさんついています。 昔、伐っても伐っても伸びてくるやっかいなクズを一所懸命刈った経験があって、私にはマルカメムシの、あの臭いもおなじみです。 そう、目だけでなく五感をフルに使って観察することは、自然観察の基本。 気配を察することができるようにまでなれば、それはもう、楽しさ倍増です。
多様なツル植物で織られたマントと、そこで生きるムシたち。 マントに覆われた森の縁では、花に蜜と花粉を求め、アブやハチ、 チョウやガが集まります。 それらを狙うのは、形態も生態もさまざまなクモ、田んぼにいるはずのアマガエルもいる。 シジュウカラなどの鳥たちもやってきて雛の待つ巣へせっせとムシを運ぶ。
多くの生き物が捕食・被捕食関係でつながっていきます。でも森のつながりはそれだけではありません。 時間的にも空間的にも複雑な森には、まだまだ多様なつながりがあります。森はなんとも刺激的!