私の楽しみは、自宅近く(横浜市内です)の追分・矢指市民の森(以下、私の森)で動植物を撮影することです。ゴキブリでもハエでも何でも、選り好みはせずいろいろなものを撮る、というのが私の主義なのですが、そうは言っても、撮りやすいもの、絵になるものはたくさん撮ってしまいます。その最たるものがカエル。そっと近寄ればじっとしていてくれることも多く、愛嬌があって、親しみやすいビジュアル、カエルにはついカメラを向けてしまうのです。
身近な動物という点ではカエルは別格、古今東西、様々なカエルキャラクターが活躍しています。ぴょん吉、けろけろけろっぴ、ケロちゃん、ケロロ軍曹…etc. そういえば、鳥獣戯画でウサギを投げ飛ばしているのもカエルでした。 撮った写真の枚数は多い方から、ニホンアマガエル(以下アマガエル)、次にシュレーゲルアオガエル(以下シュレーゲル)、さらにアズマヒキガエル(以下ヒキガエル)の順番です。この順位は見かける頻度にも比例しています。図鑑を見ると、他にもトウキョウダルマガエル、ニホンアカガエル、ヤマアカガエル、ツチガエルなどがいてもよさそうですが、私の森ではまだ見かけていません。いつか私の森で出会いたいなぁ。皆さんもカエルに会いに森へ行きましょう。
「ちょっと待った!カエルを見に行くなら田んぼでは?」日本人なら大抵の人は、そう言うと思います。日本ではカエルといえば田んぼの生き物というイメージですから。昔はそこかしこにあった田んぼも、今は住宅地や商業施設に変わってしまい、とても身近な環境とは言えなくなってしまいましたが、確かにそこは今でもカエルの王国。カエルに会いたければ田んぼへ、というのはその通りです。
ただし、行く時期を間違えるとがっかり、空振りしてしまいます。田んぼのカエルシーズンは限られています。もっとも普通にいるアマガエルでも田んぼで見られるのは、5月から7月いっぱいくらい。田植えのために田んぼに水が引き入れられる頃から梅雨明け頃までで、その時期なら、オスのカエルが田んぼでメスを求めて大声で鳴き競い、数え切れないほどのオタマジャクシがたむろして泳いでいます。でも夏本番になる頃にはアマガエルは田んぼから姿を消してしまいます。それ以外の季節、カエルはどこにいるのでしょうか。
ちょっと以外に思うかもしれませんが、親ガエルは田んぼで子孫を残すという大仕事を終えれば田んぼを後にして、近くの草地や森へ移動します。カエルは両生類なので、卵から孵った赤ちゃんは水中生活ですが、その時期をなんとか生き延びて、手足が生え、尻尾が消えると陸にあがります。そして、子ガエルも大人のカエルの後を追うように草っぱらや森に行き、そこの生態系の一員となるのです。
私の森でも、トレール脇の木の枝先や葉っぱの上に乗っかったカエルをよく見かけます。アマガエルとシュレーゲルです。夏、森の中の広場では歩くたびに足元からわらわらと子ガエルが飛び出して、足の踏み場に困ることも・・・。アマガエルは英語では”Japanese Tree Frog”、直訳すれば「木ガエル」ですから、やっぱり草や木の上が主な生活の場なんです。ヒキガエルはもっと陸上生活に適応していて、地面をのそのそ歩いているところをよく見かけます。
そして、森の生き物つながりにおいてカエルは特別な存在です。何故ならば、いろんなものを食べ、いろんなものに食べられるから。食物連鎖というつながりの中で鎖の輪と輪を「橋渡し」する「要(かなめ)」のポジションを担っていると言ってもいいでしょう。
実際にカエルが餌を食べているところはあまり見ないかもしれませんが、カエルの餌となる昆虫やクモ、ミミズやヤスデなどにとって、カエルはとても恐ろしい捕食者だと思います。死んだものや動かないものにはほとんど反応しないカエルですが、動くものへの反応はとても俊敏、大きな口でパクッとくいつきます。そしてくわえた餌が大きい場合はなんと!目ん玉を使って飲み込むんですと。グイッと目をつむると目玉が下がり、口の中の獲物をのどの奥に押し込めるのだとか。この荒業を使えばかなり大きな獲物も飲み込める。カエルの貪欲さ、おそるべし。
一方、カエルは捕食者からすればたいへん食べやすい生き物です。ヒキガエルはかなり大きなカエルですが、それでも20cm未満、食物連鎖の上位にいる動物たちにとっては巨大すぎるというほどではありません。その大きさといい、飲み込みにくい羽根も鋭い棘も鱗もない表面といい、餌としてはなるほど手頃なんですね。
森や草っ原ではイタチ、タヌキなどの哺乳類、ヘビやカナヘビ、トカゲなどの爬虫類、モズやキジなどの鳥がカエルを狙っています。私は私の森で、アオダイショウ、ヤマカガシ、シマヘビ、ヒバカリ、ジムグリといったヘビを見ていますが、そのうちヤマカガシ、シマヘビ、ヒバカリは特にカエルが大好物で、ヤマカガシはヒキガエルの毒をものともせず丸呑みです。また、小さなクモはカエルの絶好の餌ですが、逆にイオウイロハシリグモなど大きなクモはカエルを餌にすることもあります。
このように、森や草っ原でも食物連鎖の「要」の位置にあるカエルはよく食べられているのですが、泳ぎの達者なヘビに加えて、水中に潜むトンボの幼虫のヤゴ、鋭い嘴をもったサギや猛禽類のサシバなど、手強い捕食者がひしめいている水辺はもっと危険なんでしょう。そうそう、トウキョウダルマガエルはアマガエルをよく食べているそうです。
親でもかなりの割合で餌食になるのですから、オタマジャクシが生き延びる確率は低いでしょう。水の中から逃れ出ることのできないオタマジャクシは、その大部分が捕食者の胃袋に収まってしまう運命。もっとも、オタマジャクシが全部カエルになったら、世の中、カエルだらけになってしまいますから、これも自然の摂理ということですね。
そんな危険な田んぼなら最初から近づかなければいいのにと思いますが、両生類であるカエルはどうしてもオタマジャクシの時期は水の中で成長するしかないのですね。でも田んぼの中がいかに危険がいっぱいでも、捕食者にオタマジャクシが食べ尽くされることはありません。田んぼの周りに草地や森があれば、カエルは安泰なのです。
その一方で、耕す人がいなくなって田んぼが田んぼでなくなったり、開発などで田んぼと草っぱらや森が分断されてしまうとカエルの大ピンチです。道路を横切ろうとして車に轢かれてペッチャンコになったカエルの哀れな姿を見たことがありませんか?そんな場面を見ると、田んぼと草っ原と森がセットでまとまってある里山の大切さ、その価値を思わずにはいられません。里山のシンボル、カエルに会いに行きましょう。
アマガエルのヒミツ (Nature Discovery Books)
著者:秋山 幸也、松橋 利光
出版社: 山と溪谷社 (2004/3/1)