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あの人の森は?
伝えたい、森の今:第四回インタビュー:遠藤 寛子さん

あの人の森は?

伝えたい、森の今

第四回インタビュー:遠藤寛子さん(長野県阿智村) 「木を育て、けものを猟る。いのちと向き合う山村暮らし」

聞き手・文:赤堀 楠雄(林材ライター)

都会は 土を踏む という機会が全くなくて、すごく不自然で。

私が生まれ育ったのは、家が30何軒くらいしかない集落で、シイタケの原木生産をしていたり、カマドで焚く薪を山から取ってきたりっていう暮らしをしていました。カマドで火を焚くのはけっこう日常的で、タケノコを茹でるのもお赤飯を炊くのもカマドでやってましたね。それが大学進学で東京に出てきて、経済学部だったんですけど、勉強もせずにふらふらしてて、ダメな大学生をやってたわけです。ところが、アウトドア雑誌の編集アルバイトを始めたら、やっぱりアウトドアって楽しいなって思って。都会は土を踏む機会がぜんぜんありませんよね。私は山の中で育ってますから、それがすごく不自然で、都会には住めないって強く思った。それで地方に出て、何か環境的な仕事をしたいなって思ったんです。

大学を卒業して、最初は群馬の造園会社に入ったんですけど、植えたものが大きく育っても刈り込む予算がないからそのままなんてこともあったんです。成長するものを植えるのに、今だけしか見てない。なんて考えが足りないんだろう、もっとちゃんと勉強しようって思って、そこを2年でやめて、1年間勉強してから信州大学の森林科学科の3年に編入したんです。それから大学院での2年を合わせて4年間、山の勉強をしました。研究テーマは天然林施業です。森が自然に更新する力を利用しながら経済的価値を高めて木材を生産する、「漸伐(ぜんばつ)施業」っていうんですけど、それを研究しました。

 

人の手よりも時間の経過。林業って変な産業だな。でもそこが魅力。

農業や林業って、対象としているものが生きているからこそ何かができるというのが不思議で面白いんです。最初はちっちゃな苗木がだんだん大きくなっていって価値も高くなっていく。人もその手助けをするんですけど、やっぱり時間の経過が価値を押し上げるんですよ。それがすごくおもしろい。林業なんて、それを何十年もかけてやっていくんですよ。変な産業だな、でもいいなって。そういうのに感動しちゃうタイプなんです。自然の方が大きいんだけど、こっちからも枝打ちしたり、間伐したりして、ちょっとは構いながら営んでいく。そして、木と一緒に年を取っていく。いいな、そんな生き方、と思って林業をやろうと考えたんです。

信大の大学院を卒業した年の4月に飯伊森林組合に事務職員として就職し、今年5年目になります。本当は現場の作業員をやりたかったんですけど、それはダメでした。仕事は森林所有者である組合員に間伐をやるように働きかけたり、現場の管理をしたり。あと、ウチの組合は温泉宿泊施設も運営しているので、その関係の仕事をしたり、キノコ狩りツアーのガイドなんかもやります。

「林業」って、本当は材木を売って生活するっていうのがわかりやすいんですけど、いまは経済的にそれが成り立たないんです。だから森林の公益的機能をアピールして得たお金で補いながらやっている。森林の経済的な価値をもっと高めたいんですけど、そのためには環境経済学とかが発展しないとダメかな。材木そのものの価値を高める努力も必要ですよね。けれども、森林組合は山側だけで活動してますから、材木の価値が最終的にどう評価されるかっていう結果が見えづらくて、欲求不満なところはあります。

 

日常的に山に関わりたくて取った、狩猟免許。

「括(くく)りワナ」

昨年秋に狩猟の免許を取って、猟を始めました。ワナが専門の免許です。何で狩猟かっていうと、このところ組合員から賦課金を回収する仕事をやっていて、山に行く時間が減っちゃったんですよ。それがストレスなので、日常的に山に行くようにしたいなって。あと、自分が住んでる村のことをもっと知ろうということもあります。住んでいるところの裏山にワナを仕掛けるわけですから、詳しくはなりますよね。もうひとつは、自分で肉を生産できるなんて、すごいなっていうのもあって。ふつうはできませんよね。

免許を取ると、村の猟友会にほぼ強制的に入らされます。猟友会にはチームがあって、私もある親方のチームに入りました。使うのは「括(くく)りワナ」っていうワナで、ワイヤーの輪が落とし穴みたいになっていて、獣が踏み込むとワイヤーがキュッて締まる仕組みなんです。猟の成果は1年目にしては上々で、イノシシとシカが2頭ずつかかりました。ワナをかける場所は親方から「ここにかけてごらん」って指導されるんですけど、中には「あっちの方」とだけ言われて、私なりに考えてかけた場所もあったんです。そのワナのひとつにもかかってくれたんですよ。

 

猟は生々しい。だから美味しく食べようと思うし、ちゃんと生きようとも思うんです。

獲物がかかると「獲れてるぞ」って召集がかかります。チームのみんなが集まって、トドメを刺して、血抜きして、解体する。解体するのは「りょうる」っていって、料理の「料」か狩猟の「猟」かな、最初は意味がわからなかったんですけど、見ていたら、ああそういう意味なんだなって。自分でやるときは、大丈夫かなって不安でしたし、いろいろ考えることもあるんですけど、「りょうる」のは、わりと慣れちゃう。3回目くらいになると何も考えないで「りょう」っちゃうんですよ。「命」とかも考えますけど、それと「りょうる」のは別な感じで、むしろ、おいしく食べなきゃってことを思います。それよりもトドメを刺すときの方がショックでした。「止め刺し」っていうんですけど、生きてるのをやるんですから。向こうも逃げようとするし、これはショックでしたね。
私はまだ「止め刺し」したことはないんですけど、いつまでもお願いするわけにはいきませんし、一番大変なところだから、何とかできるようにならないといけないと思っています。

やっぱり猟をやると、生きる死ぬっていうのをすごく考えますし、ちゃんと生きようとは思います。あと、一度、かかったイノシシに逃げられたことがあるんですけど、9㎜もあるワイヤーを何百mも引っ張ってよじらせて切っちゃってるんですよ。ああ、やっぱりこういうものが山にはいるんだなって知りました。猟は生々しいし、危ないんですけど、獲物を獲って食べてというのを繰り返しながら、たくさんのことを発見できるだろうと思っています。

山村暮らしのステイタスを高めたい!

実は最近、結婚しました。これまでは単身だったし、仕事もしているので、地元のコミュニティにはもうひとつ属していないような感じだったんですが、これからは家庭人として、コミュニティにもデビューしないと。だからいま、ちょっとドキドキしています。もちろん、仕事や猟友会で地域の方々と付き合っているわけですが、みんな家長クラスのおじさんたちばかりなので、山里での本格的な地域活動はこれからスタートすることになります。

いまは学校の先生の宿舎を借りているので、いずれは住む場所もちゃんと決めないといけないんですが、いまのところより都会には住みたくないですね。やっぱり山村に住んでる人たちが好きだし、その人たちが昔はよかったとか、過去の歴史にすがって生きるのではなく、いまここで生きていることの良さを実感できるような社会をつくりたい。山村に住むということが非常に高いステイタスなんだって、住んでる人たち自身が思えるような社会です。そしてそのことを山村以外の人にも知らせていけるようになりたいと思っています。

プロフィール

遠藤 寛子|えんどう ひろこ

1975年生まれ。静岡県伊豆市(旧修善寺町)出身。長野県阿智村在住。日本大学経済学部、信州大学農学部森林科学科、同大学院を経て2005年に飯伊森林組合(長野県飯田市)に就職。現在、総務課指導企画係。2008年秋に狩猟免許(ワナ猟)を取得し、地元猟友会に所属。今年5月に結婚。夫は大学の先輩で陶芸の道を歩む。家庭を得たことにより、地域コミュニティへの本格デビューを期しているきょうこの頃。

遠藤 寛子|えんどう ひろこ
 

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