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あの人の森は?
伝えたい、森の今:第五回インタビュー:杉岡 世邦さん

あの人の森は?

伝えたい、森の今

第五回インタビュー:杉岡世邦さん(福岡県朝倉市) やっぱり「スギ」がいい。製材のプロデューサー「木挽き棟梁」の決意

聞き手・文:赤堀 楠雄(林材ライター)

「木挽き棟梁」という仕事

私たちのような製材工場が木の家づくりにかかわる、というのは、ふつうは「こういう寸法の柱を何本、梁を何本」という注文に合わせて単に材料を供給するだけの立場です。でも私の場合は、設計図面の段階から建物のイメージを描き、木を一番生かせるような見せ方を考えて、それに合った材料を揃えて提供するようにしています。建築士さんや大工さんと一緒になって家づくりをやっていくわけですね。手間はかかりますが、木の見せ場をどうつくるかを自分で考えるんですから、この方が絶対に楽しいです。

前に、そういう仕事がしたいんだと言っていたら、知り合いの建築士に「それは木挽き棟梁だね」と言われました。それなら私は「木挽き棟梁」でありたい、そういう仕事をする製材工場でいようと決めています。

 

木への思いに突き動かされて三代目を継ぐ

ウチは祖父の代から林業と製材を始めました。私は三代目ですが、当初、家業を継ぐつもりは全然なかったんですよね。大学は木とかかわりのない経済学部ですし、卒業後は印刷会社に就職して福岡のオフィスにいました。

会社に入って4年目くらいに担当したあるプロジェクトで、木造の研究施設を建てるように提案したのが建設会社に反対されて、蹴られてしまったことがあったんです。それが私にとっては理不尽で理解できない理由なんですよね。木造は空調にお金がかかるとか、音が響きすぎるとか。いやいや、木は断熱性が高いから空調に頼らない作り方もできるし、コンサートホールは全部木造でしょ、音が心地よく響くんですよ、と反論したんですがダメだった。

そのときに木を使って空間を作るような仕事をやってみたいという思いが、わあっと湧き上がってきたんです。それで1年くらい悩んだんですけど、世話になった上司が転勤で九州を離れることになり、一緒に来ないかと言われたときに、ええいままよと思って辞めて帰ってきたんです。1997年のことです。

山に黒字を還元するのが製材の役目

親父から経営を引き継いだのは5、6年前です。親父の代までは、高樹齢の丸太を仕入れて、和室の造作に使う役物と言われる高級材を中心に生産していたんですが、私の代では、木の家づくり全般にかかわって材料を提供する形に変えました。けれども、山から出てきた木の価値を高めて、山主にきっちり利益を還元するという考え方は一貫しています。

今は木が安くなったと言われますが、すでに親父がやっていたころから、丸太の価格が、木を伐って山から出してくる経費にも満たないということは、実はけっこうあったんです。製材所にとっては、仕入れる丸太が安いというのは悪い事じゃなくて、それで利益を出してるところもいっぱいありました。
だけど親父は「これじゃあ山に負担をかけるだけだからダメだ」と言って、山主が黒字になるような価格で仕入れるようにしていました。木の付加価値を高めて売れるようにするのは、製材をやってる自分たちの役目だという考え方です。そうじゃないと林業も木材業も発展しない、オレたちは絶対にこの路線で頑張らなければダメだというんですよね。私もそれは守るようにしています。それが親父から受け継いだ一番のことかもしれませんね。

 

九州のスギには猛々しい良さがある

私のところでは樹齢100年くらいのスギを製材して、木の家づくりに取り組んでいる工務店や建築家に提供しています。柱や梁などの構造材から、内装の仕上げ材まで、一軒の家に使う材料をひとそろいまとめて納めるわけです。お寺や神社を専門に建てている宮大工との取引もあります。乾燥はすべて天然乾燥で、自然の色つやを損なわないようにしています。

年輪がぎっしり詰まった九州の杉

一般的に流通しているスギは樹齢40年くらいのものが多いですよね。九州もそうですが、100年あるいはそれを超える木もたくさんあるんですよ。それくらいの木は迫力がありますよ。年輪がぎっしり詰まって、木目がぐっと迫ってくる。同じスギでも吉野スギとかとはちょっと違う感じですね。吉野は素直で品の良いイメージかな。それに比べて、九州の木には何かこう猛々しさが感じられるんですよね。年輪が細かい木のことを目が詰まっていると言いますが、九州の木は目が締まっている感じですね。

 

実はスギの中にもいろいろな品種があります。特に九州の場合はたくさんの品種があるので、市場で買うときにどの品種かを見定めて仕入なければなりません。一般の人からすると、同じスギにしか見えないでしょうけど、全然違うんですよね。色合いも違うし、品質的にも粘りがあったり、堅かったりと、いろいろです。製材すると表情の違いがはっきりします。私たちからすると、別の樹種じゃないかと思うくらいですよ。それがスギの面白さであり、難しさでもあるんでしょうね。

赤身へのこだわりを貫きたい

自社原木置場、樹齢100年前後の逸材がずらり

私が樹齢100年級の木にこだわるのは、耐久性のある赤身(※)を使ってほしいからです。一般的にスギは耐久性がないような言い方をされますが、赤身は強いですよ。ウチの丸太置場にはかなり長い間、野ざらしで保管している丸太がありますが、色が黒ずんで傷んでいるように見えても、赤身には何の問題もありません。製材すると、とてもきれいな色の木目が出てきます。

この耐久性のあるスギの赤身を構造材に使って、木の家を建ててほしいというのが私の一貫した思いなんです。だから高樹齢の木じゃないとダメなんですよね。樹齢の若い細い木を製材すると白太(※)が混ざってしまいますから。もちろん、白太を使わないわけじゃない。内装とかで白さが引き立つようなところには、白太ばかりをそろえることもします。でも、家の骨組には長持ちする赤身を使うべきです。

今は木に対するこだわりが薄れてしまって、白太とか赤身とかがあまり気にされません。樹齢の高い木でも、節があるからといった理由で安い値段が付けられてしまいます。私はそれは違うと思うんですよね。昔から、ちゃんとした木で家を建てたいという人は、きちんと木を選んでいたわけです。その流れを断ち切りたくないんです。

※「赤身」と「白太」
木の年輪を見ると、芯に近い方は色が濃く、外側の樹皮に近い方は白っぽくなっているのがわかります。色が濃い部分を「心材」または「赤身」といい、白っぽい部分を「辺材」または「白太」といいます。辺材には木の栄養になるデンプンが残っているため、微生物の攻撃を受けやすいという欠点があります。それに対して、心材には微生物が嫌う酵素が蓄えられているため、耐久性が高いという特徴があります。そのため、土台など腐れが起きやすいところには心材を使用するようにします。

参考:森のクイズ「白太」とは?

スギの価値を引き出したい

「木」の価値と言っても、単に「木」というより、私にとっては、やっぱりスギなんですよね。この木に本当に惚れ込んでいるんです。何が魅力かって問われれば、スギの温かさ、柔らかさ、さわやかさ、すがすがしさ、香り・・・こういうものかなあ。触るほどに、やっぱりスギだなあと思うんです。自分の名前にもスギが付いてますしね。

ヒノキもいいですけど、あれは神事をつかさどるような、不浄の場で使われる高貴なイメージがありますね。絹の着物で正装して背筋が伸びる感じかな。でも、ふだんの暮らしでは木綿の絣の方がくつろげるでしょ。スギはそっちですよ。あったかくて、ホッとする。そんな違いがあるような気がします。
だから私の仕事は、なんとなく木がいいとかではなく、いやスギだ、と主張できるようにすることだと決めています。いろいろと勉強して、スギの本当の良さを掘り起こしていく。難しいことだけど、やらなければいけないと思っています。

プロフィール

杉岡 世邦|すぎおか としくに

1969年、福岡県生まれ。92年、長崎大学経済学部経営学科を卒業し凸版印刷(株)に入社。97年に同社を退社し、以後は家業の製材と林業に従事。プライベートでは三児の父。子供たちには、自然と共存できる世の中をつくり、人との絆を深められるようになってほしいと願っている。また、大の「愛妻家」とのこと。

杉岡 世邦|すぎおか としくに
 

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