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あの人の森は?
伝えたい、森の今:第十回インタビュー:杉山 嘉英さん

あの人の森は?

伝えたい、森の今

第十回インタビュー:杉山 嘉英さん(林業家・静岡県川根本町)山村は人の暮らしの未来モデルになる

聞き手・文:赤堀 楠雄(林材ライター)

林業はプラス要素に満ちた仕事。自分自身の存在感が感じられる充実感がいい。

大学を卒業してからすぐにここに戻ってきて、それ以来、30年くらい林業をやっています。途中10年くらい道を踏み外してしまって、行政に関わっていたんですが、一昨年(2009年)の10月から林業専業の暮らしを再スタートしました。そうしたら12、3年前に間伐をした後、放っておいた木がちゃんと大きくなってるんですよ。山というのはありがたいものですよね。

山の仕事は楽しいですよ。なにしろマイナス要素がないじゃないですか。間伐や、枝打ちをすれば木も喜んでるだろうなって思えるし、皆伐だって伐採した木が使われて、また山づくりが始まるでしょ。ところが一般社会では、利益を上げようとしてやったことが、どこかで誰かのマイナスになるっていうことがよくありますよね。山はそれがない。山のためになって、自分のためになって、社会のためにもなる。そういう仕事って、なかなかありません。

もうひとつはね、自然相手の仕事は刻々と変わる状況に対して、それを読み取って対応するというところがいいんです。達成感があるというのか、自分自身の存在感が感じられるというのか、すごく充実感があります。今は道づくりに力を入れていて、山で路網開設の技術書を見て考えながらやっているんですが、本当に面白い。朝から晩まで山で仕事をして、晩御飯のときに「ああ、きょうは30mも道を付けたんだな」って思い返しながら焼酎を飲む。最高ですね。明日が雨だなんて聞くと、え、山に行けないの?って残念で仕方がなくて。ははは。

 

人と人。人と自然、山村には関係性の理想形がある

林業やそれが営まれている山村には、人と人の関係とか、人と自然との関係とかが理想的な形としてあり、それは未来モデルになるんだとずっと思ってきました。例えば、山村には必ず、その「道」のすごいプロがいて、それに対する尊敬の念があるんです。茶づくりならあの人、木を倒すならあの人、野芋掘りならあの人とかね。そうやってお互いを認め合うから、みんなちゃんと居場所がある。それぞれに存在感があって、忘れ去られることがない。それは社会の安心感にすごくつながるんです。

自然との関係もそうです。例えば山菜を採るのでも来年ことを考えながら採るというように、自然という相手のことを認め、考えて行動することが当たり前に行われています。林業も好き勝手に木を伐っていたら、とても成り立ちませんから、どうすれば森や木とうまく付き合っていけるのかを考える。それが本来の自然との関わり方なんです。

虫さされに効く蝮酒

地元には蝮酒を作って持ってきてくれる「おじさん」がいる。虫さされに効果絶大。山にはいつもこれを持ってくる。

 

ところが、いまの都会は自分さえ良ければいいんだというような風潮がありますよね。そんな感覚で自然と付き合うと、必ず自然をダメにしてしまうし、自分もそのしっぺ返しを受けてしまいます。人間相手でも自分勝手は通りませんよね。そうではなくて、自然のこと、相手のことを考えて行動すれば、自分にも恵みがもたらされる。つまり相手を大切にすることが自分を大切にすることにもつながるという関係性をつくることが大切なんですよ。

 

都会の消費することで得る暮らしの感覚からは、感謝の気持ちが生まれない

それに都会と山村では物事の出発点が違います。都会には物を買うことや消費することで暮らしを成り立たせるという感覚がありますが、山村は違う。自然と向き合って、ものをつくることが始まりになるんです。本当はそこを社会全体が原点にすべきなんです。消費が出発点では、みんな感謝の気持ちなんかぜんぜん持たないでしょ。オレが買ったものなんだから、どうしたっていいだろなんて。でも実際につくってみると、自分だけの力でできたんじゃないということがよくわかる。お天道様がつくってくれた、時間がつくってくれたんだという感覚が自然に湧いて、感謝する気持ちになります。

結局、自然とかまわりの人たちとか、自分以外の物との関係性が健全であることが大切だということです。林業や山村の暮らしにはそういう考え方や感じ方が色濃くある。それを見て感じてもらうことが、都会に住む人が抱えている閉塞感や課題が解決することにもなるんじゃないか。そういう意味でも林業や山村を守っていかなければと思っているんです。

 

FSC認証で多様な森と山村の魅力を取り戻す

ただ、最近は山村も外部経済の影響をかなり受けていて、山と向き合う文化から離れつつあるのを残念に思っています。それは林業にも問題があります。本当はまず山村があって、自然と向き合いながら営まれる人の暮らしがあって、そのなかのひとつとして森や木を利用する林業があるはずなのに、これを植えれば金になるからと、スギやヒノキやカラマツばかりの人工林をつくってきた。そうすると外部経済に頼らざるを得なくて、山を地域循環の中で利用していくことが難しくなってきた。もちろん、完全な自給自足に戻せなんて言うつもりはありませんけど、暮らしと山との関わりをもっと強くしていくことが必要なんじゃないかと思っているんです。山だって人工林ばかりじゃなくて、もっと多様でいいはずなんです。

FSC森林認証の森2008年に町や町内の仲間の林業家と協力してFSCの森林認証を取得しました。(川根本町FSC森林認証グループ 『F−net大井川』)林業に携わっている人たちは、われわれは森を守っているんだ、環境を守る仕事に従事しているんだと言いますが、それは、もっとも直接的な影響を与えうる立場でもあるわけです。実際、人工林も植え過ぎたり、手入れをしなかったりと取り扱いを間違えると、環境破壊になってしまいます。だから環境に直接影響を与える立場にある私たちが環境を意識した仕事をしなければいけないんです。FSCはその教科書になるだろうと思っています。世界から認められるこの基準にのっとって多様な森をつくり、自然をさまざま形で利用する山村の良さを取り戻したい。山との本来の関わり方を広めたい。地域社会というのは、自然との関わりの積み重ねでできたものですし、その時間のつながりをこれからも維持していきたいんです。

 

思いが紡がれた山を放ってはおけない

それにしても林業に携わっていると、山にはやっぱり特別な思いがあるんですよ。私が大学に入学した時はちょうどオイルショックで材木が高騰したときだったんですが、親父に学費やら何やらかかるけど大丈夫かって聞いたら「大丈夫だ」って。実際、下宿の近くの銀行に潤沢な資金が送り込まれました。ははは。それを今は山にお返ししているわけです。いや、もう30年も山をやってますから、お返しはできたのかな。今度は子供たちのために山をつくる時代に入ったということですね。いま、これだけ材価が安くても何とかやっていける山を親父がつくってくれ、自分もつくってきた。次は子供たちが帰ってきたときのために基盤をつくっておこうと思うんですよ。それはいま林業が苦しいとか、将来の見通しがどうとかいう話とは関係なくて、やっぱりやらなければと思うんです。

そういえば、中学生の時に親父と1泊2日で下刈りに行ったことがあります。当時は、家から現場まで1時間くらい歩きましたね。親父は、中学生相手に朝から晩まで作業をさせるわけではなくて、山の中でいろいろな話をしましてね。あれは誰が植えた木だとか、これはオレが子供のころに植えたんだとか。夜はロウソクの火を灯して、夕食にはサバか何かを焼いて食べたんだったかな。よく覚えていないんだけど、親父のことだから飯盒で飯を炊いたかもしれません。まあセレモニーみたいなものだったんですが、たぶん親父としては山に興味を持たせたかったんでしょうね。私もそのときの思い出は強くあるんです。

こうした思い出や、学費を出してもらったことへの感謝、森づくりに携わった先人への敬意など、そういう思いの積み重ねが基盤になって各地の森が守られてきたのじゃないかと思うんですよね。労働力を確保する取り組みを進めたり、機械化を進めたりすることも森を守る上で大事なんでしょうけど、根底にある、山に関わり続けてきた人の思いを忘れてしまっては持続性が確保できないんじゃないでしょうか。

私だって、どう考えても、この山をうっちゃれないですもの。
自分が大学生活を送らせてもらったり、いろいろな思い出が詰まっている、この山を。

※「うっちゃる」は静岡の方言で「捨てる」「放っておく」の意味

 

プロフィール

杉山 嘉英|すぎやま・よしひで

林業家
1954年7月24日、旧中川根町で3人姉弟の末っ子長男として生まれる。1977年に東京農工大学農学部卒業と同時に地元に戻り、家業の林業に就業。2002年~2005年に中川根町長、2005年〜2009年に合併後の川根本町長と、議員も含め約10年余にわたって地方行政の場に身を置いた後、林業専業に復帰。所有山林面積は約200ha(一部は県との分収林契約地になっており、実際に経営しているのは130ha)。中学~大学時代に離れた以外は築200年を超える生家に暮らし続ける。家庭菜園では家族と共に50種類余の野菜をつくり、風呂は薪を焚いて沸かすなど、自然と密着した暮らしを楽しんでいる。

杉山 嘉英|すぎやま・よしひで
 

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