近年、シカ・クマ・イノシシなどによる森林被害が増加しています。森林白書ではどのように報告されているのか、全体の中での扱いとしては小さなトピックですが、ここにも注目してみました。
鳥獣被害は昨今、新たな地域で発生する傾向があり、全国で年間約5〜7千haの被害が報告されています。そのうち7割はシカによる枝葉や樹皮の食害。シカは北海道から沖縄まで全国に生息し、その密度が高い地域の森林では、シカの口が届く高さ2m以下の枝葉や下層植生がほとんど消失しており、このような場所では土壌流出の被害にも及んでいるといいます。
植生学会の調査によると、全国で「回答があった区画の48%でシカによる植生への影響が認められ、20%で下層植生の著しい衰退や土壌の流出等の深刻な被害」が生じていたことが明らかになりました。知床、奥日光、富士山、南アルプス、屋久島をはじめ日本を代表する自然植生においても影響が深刻。ブナ、シイ、シラビソなどの自然林が、二次林や人工林よりも強い影響を受けているようです。
一方、クマは、主な餌となるミズナラ等のドングリやブナの実などの不足によって農地や集落に出没。2012年1月現在のヒグマ捕獲数は780頭以上と、記録がある中では1964年の794頭に次ぐ捕獲数でした。
こうした被害状況に対し、野生鳥獣被害対策では、個体数調整、被害の防除、生息環境管理の3つを総合的に推進することが重要とされています。
(右図:「野生鳥獣被害対策の基本的な考え方」)
「個体数調整」としては、計画的な捕獲、捕獲した鳥獣の肉を食材として活用する取組が全国に広がりつつあります。たとえば、「狩猟と環境を考える円卓会議」が2011年にとりまとめた提言書では、「野生動物の命=自然の恵みを積極的にいただくことを通じて生物多様性を守る」との方針を掲げ、シカやイノシシを学校給食や公共の食堂でのメニュー化、シカ皮(セーム皮)やイノシシ油の製品化などを提唱しています。
この森林白書では具体的な記載はありませんが、実際に、「ジビエ給食」などとしてシカ肉をメニューに取り入れる学校も出てきています。また、セーム皮を新たな素材として見直し、革製品を製造・販売する動きも見られます。
参考記事
2つめの「被害の防除」は、防護柵の整備や、新たな防除技術の開発等。たとえば、北海道森林管理局では、道内で増加するエゾシカの被害対策として「囲いわな」を導入。フェンスで囲んだ区域にシカをエサで誘い込み、捕獲コンテナでシカを追い込む手法。捕獲したエゾシカは食肉として有効利用できるように、囲いわなの開発・設置から捕獲した個体の搬出、食肉加工までを一貫した工程で実施する体制を整備しています。
「囲いワナ」によるエゾシカの捕獲
参考記事
「生息環境管理」としては、農地に隣接した森林の間伐等により見通しをよくして、鳥獣が出没しにくい環境=緩衝帯をつくるとともに、地域の特性に応じた広葉樹林を育成する取組等が行われている、と書かれています。
松くい虫被害の原因「マツノザイセンチュウ」は長さ1mm弱の線虫
鳥獣ではありませんが、病害虫による被害も取り上げられています。体長約1mmの「マツノザイセンチュウ」がマツノマダラカミキリに運ばれて、マツ類の樹体内に入り枯死させる「松くい虫被害」。2010年にはピーク時(1979年243万m3)の4分の1程度に減少しているものの、それまで被害のなかった青森県で発見され、県内への被害の拡大が危惧されているようです。
林野庁では、全国での被害拡大を防止するため、薬剤の散布や樹幹注入、被害木の伐倒くん蒸などを実施。また、マツノザイセンチュウへの抵抗性のある品種の開発が進められ、2010年までに305種が開発され、約86万本の抵抗性マツの苗木が生産されました。
一方、ナラ枯れは、体長5mm程度の「カシノナガキクイムシ」がナラ・カシ等の幹に潜入して「ナラ菌」を持ち込むことによってナラ・カシ類の樹木を集団的に枯死させる現象。被害量は2002年以降増加して2010年度には前年度から10万m3増加して約33万m3、2011年は一転して16万m3に減少しました。
広がるナラ枯れに対し林野庁では、被害木の焼却によるカシノナガキクイムシの駆除、健全木への粘着材塗布やビニールシート被覆による侵入予防、2010年度からは殺菌剤の樹幹注入などの対策も行っています。
また、スギノアカネトラカミキリなど穿孔性昆虫による食害を受けた木材の利用を促進する動きが、コラムとして紹介されています。
構造材として使用された「あかね材」
従来、スギ・ヒノキなどの食害を受けた箇所は、「むしくい」「とびくされ」などと呼ばれ、材の変色を起こして木材の価格が低くなるため伐採が進まず、森林整備が滞る一因となっていた。このため、三重県の木材団体は、食害を受けながらも強度・耐久性に問題がない木材を「エコブランド・あかね材」と命名。被害の大きさに応じて等級付けをして利用の促進に取り組んでいると。
このようなコラムや事例からも、新たな取組や動向が読み取れます。