僕が育った場所は、名古屋市内の天白区という新興住宅地で、裏山に湿地帯があったんです。そこでタガメとかモウセンゴケとか、ありとあらゆる虫や生き物を捕って遊んでいました。川遊びも好きで、高度成長期の住宅地を流れる底が見えないような汚い川に胸まで浸かって遊んでいました。夏休みになると、母の実家があった長野の川で、マスを手づかみで、かなりデッカイやつを何匹も捕まえた記憶があります。
トカゲも幼稚園の頃から大好きで、カナヘビなんて居る場所もわかって捕まえるコツもマスターしていました。まず1匹捕まえて、さらにもう1匹。そしたらポケットに入れて、ポッケがいっぱいになったら今度はクチにくわえるんです。トカゲって目が見えないとおとなしくなるので、クチの中でもがかないでビローンとなっちゃう。春になるといつもビロビロとトカゲをくわえていました(笑) は虫類も昆虫もあまりに大好きだったので、女の子達が「気持ち悪い」と嫌う意味が20代になるまでわかりませんでしたね。
虫でも魚でもは虫類でも、生き物が「あそこらへんに居る」という感覚には自信があります。気配とかそういうのがね。なんか、見えちゃうんです。
大学は芸大の油絵科に入り、その後壁画科に属していたのですけど、絵を描いたのは数えるほどでした。では何をしていたかというと、「見えないものを見る」ということをコンセプトにした創作。例えば、「肉を食べる僕らにその過程が見えてないのはおかしい」と思い、血の滴る牛の頭とか内臓をテーブルの上に載せたりするグロテスクな作品を展示したこともあります。それはかなりセンセーショナルだったみたいで、大勢人が集まり話題になりましたが、中には「絶対だめ」と拒絶して見ない人もいました。
「絶対だめ」と言われたのがずっと頭にあって、フランスに留学した時に「いかに人に見せるか、美術を通して自分は何ができるのか」と、いろいろ深く考えました。そして、こんな結論めいたところにたどり着きました。自分の力でも何かしら影響は与えられる。なぜなら、自分も循環の中の一要素であって、すべてがつながっているのだから、ちょっとしたことでも何かが変わればそれが連鎖していくと。さらに、地球で暮らす限り自然現象というのは世界共通言語だ。それなら「地球と遊ぶ」をテーマにしようと。
以来、「地球と遊ぶ」をテーマに、目に見えない地球の力を現象として視覚化する装置を作品として制作しています。例えば、光の性質であるピンホール現象を利用してこもれびの形を星型に変える「木もれ陽プロジェクト」、電気を直接食材に流して調理する事で、電気の本質を見ようとする「出前調理人」など。世界中の人が共感できるテーマだから、同じフィールドでメッセージが伝えられます。
長い学生生活が終わった後、自分が住んでアトリエもあってという環境を探していました。そんな時、たまたま仕事で山梨県早川町に来たら、会う人会う人みんな目がキラキラしていたんですね。いろいろな地域を見て回ったんですけど、なぜか早川町の人はキラキラ。しかも、そこで会った宮大工さんに、アトリエ兼自宅を探していると話したら「そんなん、おれっちが見つけてやる」って。初対面で(笑)だけどなんか「ここだな」と思ったんですよね、勘ですけど。で、二度目に来た時に今住んでいる古民家を借りることに決めました。即決です。
僕は、名古屋と東京で育ったので、とことん田舎暮らしは経験していなかったんですよね。田舎を知らずして自然を自分の作品に取り込んでいいのか、という疑問もあって……。初めは田舎暮らしに反対していた妻も、今ではすごく楽しんでいます。夜は10時には寝て、日の出とともに起きて、放し飼いの鶏を飼い、春は山で山菜を採って食べ、秋は木の実を拾い、冬は薪割りをする。自然の流れを全身で感じ、自然と向き合う暮らしです。
ここではよく山に入ります。キノコ刈りもしますし、鹿の角とかいろいろ面白いものが落ちているので。森の中には、都会とは違う時間の流れ方があると思います。蓄積しているんですよね、時間が。木はもちろんそうだし、例えば3、40年前に誰かが棄てたビールの缶がそのままそこに在る。それも時間の蓄積です。そういうこと一つでも、森は面白いですよね。
最近では、僕がここに来た以上は、ただ作家としてここから発信するだけじゃなくて、この山だらけの町を何とかしたい!この町だからできる事をしたい!と思うようになりました。まだ何ができるかわかりませんけど、きっと。
生活工房|イベント情報・詳細|森_living
7月28日(水)〜8月9日(日)、東京都世田谷文化生活情報センター「生活工房」で開催された「森_living」展は、好評をいただいて無事終了いたしました。
都会にいても、本当に森を感じることのできる木村さんの作品群は、訪れた人を癒していたようでした。
木村崇人
現代美術家
1971年生まれ 愛知県出身
東京芸術大学大学院美術研究科博士課程修了(博士学位取得)
1998年から「地球と遊ぶ」をテーマに作品を制作。目に見えない地球の力を 視覚化し、実際に体で感じる事ができる体験型作品を中心に展開。ワークショップも日本全国で数多く発表している。代表作品には、木もれ陽の形を様々な形に変える『木もれ陽プロジェクト』、ジャイロの性質を利用した『ジャイロシリーズ』、目の位置を変える事で、巨人の視覚を体験することができる『ガリバーシリーズ』、風見どりを群生させる『風見どりシリーズ』などがある。