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あの人の森は?
あの人の“森”語り:高見 幸子さん

あの人の森は?

あの人の“森”語り

「座っている木の枝を自ら切り落とす」そんな時代を、変えなければ。 第十二回ゲスト 高見 幸子さん プロフィールはこちら

ふるさとの丹波の里山で原体験

「ふるさと」という歌に出てきそうな、典型的な日本の里山で育ちました。兵庫県市島町という丹波山地のふもとで。1950年代の農村は、田植えの時は学校を休んで手伝うという時代。小学校6年までは薪で火を起こしていたので、母と一緒に山へしば刈りに行ったり、家畜の子牛の世話などもしていました。

そこでは自然は当たり前のもので、山や田んぼは生活の一部、労働の場だったんですね。楽しかった記憶は川遊びや生き物たち。いろんな魚がいましたし、ある時、家の裏の電線の上をすごく大きなヘビが落ちずに移動しているのを見て、すごいなあと感動したのは今でも覚えています。

高校生の頃は、自転車に乗って山と会話しながら帰る日々でした。いろんな悩みを山に語りかけると、話を聞いてくれるような包容力が山自体にあって、ほっとしたり……。その後大学時代に大阪に出て、都会暮らしに疲れてふるさとに帰った時も、レンゲ畑や山の景色に癒されていましたね。

 

自然との関わりが違う!日本とスウェーデン

大学卒業後に、もっと専門的に英語を勉強しようと留学したアメリカの大学で、「女性が働くのは当たり前」という当時では珍しい考え方のスウェーデン男性に出会い、やがて結婚してスウェーデンで暮らすようになりました。

スウェーデンの森って、日本と違って平らだし、雑草が少なくてすごく入りやすいんです。それに、昔から、ブルーベリーやコケモモなど森の恵みを誰もが採って食べて良いという慣習があり、自然は国民全員のもの、誰もが自然を享受する権利があるという思想をもっていて。都会でも、「散歩に行こう」と言うと行く先は森なんですね。

だから、文化やマナーとして、自然や動植物に対する配慮が身についている。枝を折らない、ごみを捨てない、貴重な動植物は採ってはいけない。そして、道路などを造る時には事前にきちんと調査をして、希少な生物が生息する場所は避けたり景観に配慮したりする。すごく自然を大切にする国だなと感じました。

ストックホルムでは、街のどこでも300m程歩けば森の中。

一方、80年代、久しぶりにふるさとの丹波へ帰った私を待ち受けていたのは、育った村を縦断する高速道路でした。山が削られ池も埋められて……。聞けば、ほとんど誰も反対しなかったというじゃないですか。経済発展のためだとは解っていても、「日本とスウェーデンではどうしてこんなに自然との関わり方が違うのだろう?」と悶々と考えました。

目からウロコ、森のムッレ教室

疑問を解く手がかりとなったのは、「森のムッレ教室」との出会いでした。スウェーデンでは5歳になると、保育園の子ども達を森に連れていって生き物と遊ばせたりしながら、自然が循環していることを教えていきます。ムッレというのはスウェーデンの森の妖精のことなんですが、大人がこのムッレの役になって森のことは何でも教えてくれる。子ども達にとっては森のヒーローです。

当時5歳の娘が森のムッレ教室を楽しみにしていたのですが、残念ながら順番待ちというような事情もあり、私自身が主宰団体である野外生活推進協会のリーダー養成講座を受けることになりました。それが、目からウロコ!(笑)

 

ナゾが解けた思いでした。まだ白紙の5歳の頃から、森のなかで遊びながら自然に触れる原体験をする。それに加えて、人間を含めた生き物がそれぞれ自然の中で役割があり人間も自然に生かされているというエコロジー、生物多様性を知識として学ぶ。つまり、原体験の上にエコロジーの知識を自然に身につけられるムッレ教室のような教育があるからこそ、自然を大切にする大人になるんだと。

 

日本で育った私は、里山の素晴らしい原体験がありました。ただ、当時の大人はエコロジーの知識は与えてくれなかった。その頃の日本で環境教育は盛んではありませんでしたから……。年間8万人ぐらいの子ども達がムッレ教室を体験していたスウェーデンと、自然との関わり方に大きく違いがある理由が腑に落ちました。

自然も人も、持続可能な社会のために

幼少時から自然に触れてエコロジーを学ぶ大切さを実感した私は、1990年に森のムッレ教室を日本に紹介し、全国各地に広める活動をしています。今までに参加した子ども達の数は、2万人以上に達しました。

生物多様性を守って、持続可能な社会をつくる。そのための教育は、まっさらな子どもの頃に始めるのが理想。でも、大人になってからでも間に合うんです。それをするかしないかが、私たちの将来の生存にまで影響する。

 

スウェーデン人は、「私たちは木の枝に座っているのに、その枝を自分でノコギリで削っているようなもの」という言い方をします。自分の座っている枝を切り落とすようなことがないように、行動しなければいけませんね、私たち。

少し足をのばせば広大な自然を満喫できる。(国立公園)

プロフィール

高見 幸子

国際NGOナチュラル・ステップ・ジャパン代表
 

1974年よりスウェーデン在住。15年間、ストックホルムの基礎学校と高校で日本語教師を務める。1984年より野外生活推進協会の活動である「森のムッレ教室」5−6才児対象の自然教育リーダーとして活動。現在、スウェーデン野外生活推進協会の理事、幼児の環境教育を推進する森のムッレ財団の理事。1995年から、スウェーデンへの環境視察のコーデイネートや執筆活動等を通じてスウェーデンの環境保護などを日本に紹介している。1999年から、企業、行政向けの環境教育を実施するスウェーデン発の環境保護団体ナチュラル・ステップの日本事務所の設立に関わり、2000年より、国際NGOナチュラル・ステップ・ジャパンの代表。企業・自治体の環境教育のファシリテーターとして活動中。

【邦訳】
『自然のなかに出かけよう』ステイーナ・ヨーハンソン著 日本野外生活推進協会
『ナチュラル・チャレンジ』カール・ヘンリク・ロベール著 新評論 
【著・共著】
『日本再生のルール・ブック』高見幸子著 海象社
『スウェーデンの持続可能なまちづくり』高見幸子監訳 新評論
『北欧スタイル快適エコ生活のすすめ』高見幸子・鏑木孝昭 オーエス出版
『幼児のための環境教育 スウェーデンからの贈り物「森のムッレ教室」』 新評論

 
 

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