「バイオマス資源」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか? バイオマスとは、もともと生態学の言葉で、「生物量」と訳される言葉です。ここから転じて、バイオマス資源という時には、生物(有機物)に由来する再生可能な資源(化石燃料を除く)を指しています。
バイオマス資源が注目されるのは、「カーボンニュートラル」という考え方に関係しています。バイオマス資源も他の資源と同じように、燃やすと二酸化炭素を排出しますが、これは生物が成長のために大気から取り込んだ分を放出するのと同等で、全体として見れば大気中の二酸化炭素を増加させたことにはならない、と考えられています。これがカーボンニュートラルです。
燃やすと大気中の二酸化炭素を増やしてしまう化石燃料を、カーボンニュートラルな資源に置き換えれば、二酸化炭素の増加を抑えることができます。バイオマス資源のうち、木材に由来するものを「木質バイオマス」といいますが、木質バイオマスも、カーボンニュートラルな資源として期待されていますす。
いま日本がめざしているのは、できるだけ石油や石炭などの化石資源に頼らないようにして、温室効果ガスの排出量を自然界が吸収する量と同じ程度に収め、しかも生活の豊かさを実感できる社会です。この、いわゆる「低炭素社会」の実現に向けて、さまざまな形で木質バイオマスを活用する取り組みが進められています。
木質ハイブリッド集成材を利用した、大規模耐火建築物(名古屋市丸美産業本社ビル。5階建て)。
木材を、木造住宅や家具のような形で長期間使用すれば、木の中に固定された炭素を大気中に戻さず長く貯蔵できます。実際に、住宅一戸あたりの炭素貯蔵量は、木造住宅の場合で約6炭素トン、鉄骨プレハブ住宅は約1.5炭素トン、鉄筋コンクリート住宅で約1.6炭素トンと推定されています。木造住宅や家具を増やすことは、まるで街の中に森林を育てるのと同様な効果を生むと言ってもいいでしょう。
最近では、さらに多くの場所で木材を活用できるように、木質ハイブリッド集成材など、新素材の開発が進められています。
資材を製造・加工する際に、化石燃料を使う必要が出てくる場合があります。この点でも木材は、鉄やプラスチックなどに比べて、化石燃料の使用が少なくてすみます。このため、鉄やプラスチックの代わりに木材を利用すれば、その分だけ二酸化炭素の排出を削減することができます。
例えば、住宅一戸あたりの材料製造時の炭素放出量で比べると、木造住宅の場合は約5.1炭素トン、鉄骨プレハブ住宅は約14.7炭素トン、鉄筋コンクリート住宅は約21.8炭素トンと推定されています。炭素貯蔵量と合わせてみると、木造住宅以外は炭素放出量が炭素貯蔵量を上回ってしまっていることがわかります。
木材は炭素の貯蔵庫であるだけでなく、資材としても二酸化炭素の排出が少なく温暖化への負荷を減らす特性をもっています。
「森林・林業白書(平成21年版)林野庁編」をもとに作成
化石燃料とは、人類の歴史より遥か昔に動植物などの死骸が地中に堆積し、数百万年から数億年かけて地圧や地熱などにより変成されてできた有機物の化石のうち、わたしたち人間が燃料として用いているものをさします。
化石燃料を燃やすと発生する二酸化炭素 (CO2) 、窒素酸化物 (NO, NO2, N2O4) 、硫黄酸化物 (SO2) などは、大気中に排出されると、地球温暖化だけでなく、大気汚染による酸性雨や呼吸器疾患などの公害といった深刻な環境問題を引き起こす要因になります。また、資源埋蔵量にも限りがあるため、持続性の観点からも問題視されています。
上記は、バイオマス以外の電源別CO2排出量。ダントツは石炭による火力発電。世界では石炭による発電を止める傾向にあるが、日本は逆に増えている、というデータもある。なお、ライフサイクルは原料調達の部分からを含む計算となるため、太陽光発電の排出量も意外に高い。 参考まで。
一方、薪や木質ペレットなどの木質バイオマス燃料は、もともと大気中の二酸化炭素を固定したものなので、燃やして二酸化炭素が出ても地表より上で循環する二酸化炭素(炭素)の全体量はプラスマイナスゼロ(カーボンニュートラル)であるとみなされています。このため、木質バイオマスエネルギーが化石燃料に置き換われば、それだけ温室効果ガスの削減につながることが期待されています。
炭素を蓄積・固定し、二酸化炭素の排出を削減するなど、木材には地球温暖化対策に役立つさまざまな働きがあります。理想は、木材に固定された炭素ができるだけ長期間にわたって貯蔵され続けることです。幸い木材にはさまざまな用途があるので、使い方を上手に設計することで貯蔵期間を長くすることができます。
例えば、木材の最初の用途として、長年にわたって保たれる建築物などの資材として活用し、やがてその役目を終えると、今度はボードや紙などにリサイクルし、最終段階では化石燃料に置き換わる燃料として利用する、というように何段階にもわたって木材を活用する工夫ができます。
「森林・林業白書(平成21年版)林野庁編」をもとに作成