プラスチックとは、熱や圧力を加えることで任意の形に成形できる塑性(=plasticity)をもつ合成樹脂のことをいいます。JIS(日本工業規格)の定義によると、プラスチックは「必須の構成成分として高重合体 (ポリマー)を含み、かつ完成製品へのある段階で流れによって形を与え得る材料」。主に石油を原料として、高分子合成反応させることによって合成ポリマーがつくられ、これを主体としてプラスチックがつくられます。
合成樹脂の「樹脂」とは、もともとは樹木から分泌される樹液が固まったものです。よく知られているのは、松ヤニ、柿渋、漆など。これらの「天然樹脂」は水に溶けにくく、固まって、形を保持する特徴があるため、古くから塗料や接着剤、充填材などとして広く暮らしの中で使われてきました。
漆は、ウルシの木から採取する天然樹脂。10年以上育てて1本の木からコップ1杯分しか採れない貴重なものであるが、防腐・防水・防錆・抗菌効果を持つ塗料となる。現在、国産漆は、僅か3%足らずとなっている。(写真・解説:漆とロック)
こうした天然樹脂と同じような性質を持ちつつ、より使い勝手の良い樹脂を幅広く用いるべく、石油などを原料として化学的に合成したのが「合成樹脂」です。
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最初に工業化されたプラスチックはセルロイドでした。1870年頃、アメリカで、高価な象牙に代わるビリヤードの玉の材料を開発すべく発明されたそうです。
これはニトロセルロースと「樟脳」を混ぜてつくられた半合成プラスチックで、ビリヤードボールをはじめフィルムやおもちゃなどに大量に使用されましたが、非常に燃えやすく劣化しやすい欠点から、次第に使われなくなりました。
世界で初めて合成ポリマーからプラスチックがつくられたのは1907年のこと。石炭を原料とした炭化水素物質から、合成高分子をベースとしたプラスチックを生成することに成功したのはレオ・ベークランド。この発明者の名前から「ベークライト」と名付けられました。ベークライトは、電話の受話器やラジオ・テレビのケース,エンジンのパーツ,キッチン用品など幅広く使われるようになりました。
その後、多様なプラスチックが次々に生み出されます。
1926年のポリ塩化ビニルに始まり、ポリウレタン、ナイロン、そして1941年には現在ペットボトルに使われているポリエチレンテレフタレート(PET)、1954年に発泡スチレン(いわゆる発泡スチロール)と、1920年代から1950年代にかけての世界はプラスチックの発明ラッシュだったと言えそうです。
日本では、1914年に石炭からフェノール樹脂がつくられたのがはじまりで、1949年にはポリ塩化ビニルの生産が開始。本格的に大量生産されるようになったのは、石油化学工業が国の政策の後押しでスタートした1958年頃からです。
第二次世界大戦中は、鉄や銅などが軍事利用で貴重なものになったため、プラスチックの需要が世界的に増加しました。
大戦が終わると、プラスチック市場は急速に拡大します。軽量で耐久性があり、メーカーにとっては好きな形に成形できて安価に生産でき、消費者にとっては安く手に入り使い捨てができる便利さがあるプラスチックは、あっと言う間に人々の暮らしの中に浸透しました。戦後の「中流階級」の台頭とともに、プラスチックは「文化的な民主化」のシンボルとなったのです。
一方で、回収されずに捨てられたプラスチックごみによる汚染が問題視されるようになってきました。陸上や水中を問わず、魚類、哺乳類、鳥類などさまざまな野生生物が誤って飲み込んだプラスチック類で時には死に至ることがまず指摘されました。近年では、5mm以下の微小な「マイクロプラスチック」が生態系を破壊し、食物連鎖のサイクルで人間も摂取している実態が明らかになってきました。マイクロプラスチックは海洋だけでなく、雪山や北極圏の氷の中からも見つかっており、大気中を移動していることも指摘されています。
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これを受けて各国でレジ袋やストローの使用を禁止するなどライフスタイルを通じてプラスチックを減らす取り組みが始まっています。同時に、再生可能な生物資源でつくった「バイオマスプラスチック」 、自然環境で分解されて土に還る 「生分解性プラスチック(グリーンプラ)」など、従来とは異なる素材のプラスチックに置き換えようという試みも始まっています。新素材にもそれぞれにメリット・デメリットがあることが指摘されていますし、すぐにはライフスタイルを変えられない人もいるでしょう。どのように問題を解決するかについては、まだ正解はありません。
「私の森.jp」では、プラスチックによる環境への負荷を取り除いていく取り組みを「省プラスチック」ととらえて、森の恵みを通じて何ができるかこれからも考えていきます。その際にヒントとなる考え方に「バイオエコノミー」があります。バイオエコノミー(生物圏に負荷をかけない経済活動)とは、生物の持つ能力や性質を活かした技術や資源などを活用し、再生可能であり循環型の経済社会をつくる概念で、以下の3つの視点で望ましい社会の実現を目指そうというものです。
今では私たちの身の回りにあふれ、手の施しようもないほど普及したプラスチックですが、歴史を振り返ればまだ100年余り。めざしたい未来の姿を思い描きながら、そこにいたるための最良の手段を「私の森.jp」でも引き続き探っていきます。